意味不明な「消費者金融の規制緩和」は議論必至 --- 岡本 裕明

アゴラ

6月29日付時事通信の「消費者金融の規制緩和 『認可業者』に上限金利29.2%―自民党が貸金業法改正案」という記事が注目されているようです。あれっと思った方もいると思います。実はほぼ同様の記事は日経が4月19日付で打ち出しており、株式市場もその頃、このニュースを受けて消費者金融関連株式が暴騰した経緯があります。その後その可能性を否定する流れとなったため忘れられかけていた話題でしたがここにきてまたぶり返すのでしょうか?


株式市場の反応はニュースが表に出る前から反応を示す「特性」があり、確かにこのところの消費者金融株式に動意があったことは間違いありません。時事通信ほかのニュースが「認可業者」という切り口をベースに焼き直し記事に仕上げたとみるべきです。ちなみに4月19日の日経は「健全経営だと認可された貸金業者に限り…」という表現でした。

さて、その検討されている規制緩和の内容ですが、その優良なる「認可業者」の貸し出しに限り、金利上限を現状の20%からもともとあった29.2%に、また一人当たりの借り入れを収入によって管理する総量規制も撤廃するというものです。

貸金業法は2006年12月の改正貸金業法成立、2010年6月の完全施行で貸金の世界がすっかり変化しました。

かつて大手貸金業者とは武富士、アコム、アイフル、プロミス、レイク、三洋信販だったのですが、紆余曲折したのち、大きくその立ち位置が変わりました。アコムは東京三菱系、プロミスは三井住友系となりアイフルだけが独立系大手として頑張っている状況です。そのほか、アプラスやTFK(旧武富士)を引き継いだJトラスト等が上場消費者金融として存在します。

今回の自民党の規制緩和検討の動きとはどう考えても金融と関係の強い議員あたりからの動きだろうと思います。メガバンクの傘下でこれだけ健全に運営しているのだから(特にそこにみずほ銀行が入っていないことにも意味があります)企業別の査定に基づき、差別化を図ってくれということでしょう。この意味はネームバリューがあり、且つしっかりしている業者への保護であります。

消費者金融の問題はもともと二面あったと思います。一つは貸し手、一つは借り手です。貸し手とは暴力団絡みや法外な金利(トイチ=10日で1割の金利)など、借り手の足元を見た不当なサラ金が後を絶たなかったことがあります。それこそ、80年代頃の繁華街のビルは消費者金融の看板が林立状態でした。

もう一つは借り手の問題です。いわゆる賭け事や浪費などで首が回らなくなり、チョイ借りのつもりがあれよあれよという間の大借金ということは私の周りからもそこそこ聞こえてきたものです。家族親戚からお金を集めてそれこそ必死で返済するのはまだよい方で「夜逃げ屋本舗」も決して映画の世界だけではなかったのです。

そこへ現れたのが貸し手も借り手も天地が引っくり返るような貸金業法の改正だったわけですが私は結果として健全な体質になったと思っています。いま、自民党の一部の議員はなぜ優良貸し手だけ金利上限を29.2%に戻そうとしているのか、これはよくわかりません(取り立て方が優しいからというわけでもないでしょう)。なぜなら借りてみれば分かりますが、この低金利、低成長の時代にこんな馬鹿げた金利を払っても絶対にまともなことはありません。経済や物価が年10%も伸びている時代なら分かります。せいぜい年間3%の物価上昇や経済成長を遂げれば御の字の時代にこの緩和は意味不明であります。

ただ、総量規制は場合により考慮してもよいかと思います。人の収入に応じて機械的に貸付額を決めるというのはその人の特性を無視しています。一時的にどうしても必要なブリッジファイナンスが必要な場合もあります。ところがお金が有り余っている銀行は決して困っている人にお金を貸しません。銀行とはお金が余っている人に更にお金を貸すようになっています。だからこそ、持てる人はさらに富み、持てない人との格差は広がるようになっています。

この自民党の案は与野党で相当揉むことになるでしょう。いや、揉んでもらわねばなりません。相当慎重にそしてあらゆる意見を取り込んで落ち着くところを決めないと禍根を残すことになる気がします。

それにしても日本という国も面白いもので4、5年で法律の根幹をひっくり返すことを真剣に考えるとは結局、前回の改正は議論不十分だったということになるのでしょうか?

政治家の本音とは「結託」なのでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年7月1日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。