断層と原発事故の関係を整理しよう --- 山城 良雄

アゴラ

早いもんやなぁ。アゴラで御厄介になって、かれこれ1年。熱心なファンの皆様は周知のこととは思うが、最初の記事は活断層の話や。覚えてるか「断層とカレーは上にカツがのると急に値段があがる」ってな。花もはじらう顰蹙初体験や。

と、こんな書き出しをしておいて申し訳ないんやが、ここから先、この記事、あまりオモロないと思う(いつもの事やがな……やかましい)。笑いや下ネタを期待している人は、次でサービスする(せんでええ、せんでええ)から、読み飛ばして欲しい。


さて、今回は初の画像付きの記事になる。Fig.1を見てくれ。これは1995年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)時の、ある低層マンションの被害写真や。当時の建物被害分析の第一人者、八尾眞太郎教授(関西大)の論文から引用している。ただし、住民に迷惑をかけたくないから場所はボかしておく。

Fig1
Fig.1

100円玉の向こう側の手すりが、8cmほど左へズレている。これは2棟1組のマンションのうち、奥の棟が手前の棟に対して左へズレたことを示している。ここだけ見ると、このマンションが揺れで歪んだだけのように思えるが、Fig.2、3にあるように、この左ズレは300mほど続いていた。

Fig2-3
Fig.2                 Fig.3

この被害、当時の学界では「地滑りらしい」ということで決着したそうやが、場所は平地や。単純な地滑りとは考えにくい。もちろん、この場所に既知の活断層などない。また、このラインを挟んで建物被害の傾向にも違いが見える。

おそらく、揺れによってできた断層状のズレということなんやろうな。仮にこれを断層モドキと呼んでおくで。ワシが今、考えているのは、この現象が原子炉の下でおこったらどうなるのかということや。

何しろ7階建てのマンションを千切るだけのパワーがある。はるかに軽量な原子炉など簡単に運んでしまうやろ。たとえば、原子炉建屋とタービン建屋の間にこのズレが走ったら、冷却水が通るパイプの継ぎ手は無事で済むんやろか。

地球科学を学ぶ多くの学生が口にする違和感に、断層というもののイメージが地質学を地震学とでまるで違うということがある。地震屋にとって断層とは現象で、地質屋にとって断層とは結果や、という違いが根本にはある。

地震学者は断層を狭く定義する。「プレートの運動を起源とする岩盤の歪みで出来た地層のズレ」。自分で地震を起こしながらズレたものが正統派の断層やと言いたいわけや。地滑りのようなセコイ現象は、一種のノイズとして無視される傾向がある。

さすがに地質学者も、本格的な断層と地滑りの区別をしようとはしているが、現場では、必ずしも正確には区別できん。

こう考えると、なぜ地震屋が「活」断層にこだわるかが良くわかる。兵庫県南部地震の野島断層のような本格派は、プレート内にかかっている力を反映してズレている。そして、その力がなくなるまでは、何回も同様の地震がおこり、最大10万年単位で同じようなズレの運動を繰り返すことになる。こういう力が残っている断層が、彼らにとっての活断層なんやろう。

ところが皮肉なことに、プレート内の力を直接観測することなどできんから、「活」かどうかの判定は、「最後に動いてから何年たっているか」という話になり、化石やら地層やらが専門の地質屋はんの仕事になる。

この「何年前か」というのがくせ者や。ワシが大学入りたてのころに習った定義では、「人類が地球に登場して以降に動いたもの」ということで、500万年前という御立派な数字が出てくる。

神戸の震災のころにはやった定義では、「沖積層を切っていないもの=最後の氷河期以降に動いていないもの」ということで、1万年前という、別の意味でとんがった話が出てくる。

確実な活断層は学者の世代間にある、と言うて笑っている場合やない。はっきり言うと、「活」断層に地球科学界全体が納得できるような美しい定義があるわけではない。あくまで目安でしかない。

そやから、地震学者は原発敷地内の断層に死亡宣告をして、再稼働安全宣言の片棒をかつぐのを嫌がるわけや。「安全」と言った翌日の地震で(仮に地滑りででも)その断層が動いたら、自分が「活」教授ではおれんようになる。

原発の安全性を考える場合、敷地内の断層の「活」をあまり気にするべきやないと思う。断層の新旧と、地震時にそれが動く可能性が一致するという根拠はないし。地滑りや断層モドキの例のように、何もないところに地震で、いきなりズレが発生することもある。

そやから日本に原発を作るなら、足下で断層や断層モドキや地滑りが活動する可能性を、最初から織り込んでおき、人工地盤などで「断層に負けない原発」を目指すべきやと思う。自信のない地震学者をあてにして、活断層議論から逃げるのはやめたほうがええ。

と、ここまで書いたところで、アゴラに興味深い記事が出た。「「福島原発は地震で壊れたのか─可能性は小」や。これまであまり議論されていなかった、福島第一の運転パラメータなどがあり貴重な議論やと思うが、地球屋のハシクレとしては、地震の被害を揺れの加速度でだけ論じている点が気になる。

たとえば、断層モドキの活動が数秒かけておこったとしても、ズレの大きさは数cm程度やから、加速度計には記録が残らんやろう。一方、この記事の最初の表にある観測記録最大加速度値の各原子炉ごとの値、えらい興味深いもんや。

福島第一原発では敷地の北の方に5、6号機が並んでいて、500mほど南に下った場所に、北から順に1~4号機がある。この4機の間隔は100mも離れていないのに、1と2号機、3と4号機で揺れのパターンが全く違うことがわかる。変やとは思わんか。

また、この記事にもあったように敷地内で送電鉄塔が倒れている。あんな低重心のものが、揺れだけでどうやって倒れるんや。兵庫県南部地震でも送電鉄塔の倒壊例はないはずや。そやけど、断層モドキや地滑りが出来るような大きな地盤の動きが敷地内であったとすれば、こうしたいくつかの謎に説明を付けられる。

ある構造物の地震被害の経緯を物理的に記載するのは、実はかなり難しい。兵庫県南部地震の象徴のようになった阪神高速の倒壊も、きちんとした数値的な説明は結局、出来ずじまいやった。そやから、福島第一での加速度記録を見て「原子炉は地震には持ちこたえたんでしょう」という気楽な議論には疑問を持たざるを得んわな。

ちなみに、上記の記事、他にも疑問点がいくつかあるが、専門外の分野で専門家に論争を挑むには覚悟と準備がいる。もし、自信が持てる論証がまとめられるようなら、近日中に記事にするつもりや。ただし下ネタを織り込む余裕はない。あまり期待せんと待っていてくれ。

今日はこれぐらいにしといたるわ。

帰ってきたサイエンティスト
山城 良雄