北朝鮮問題で初めて主役を演じる日本 --- 長谷川 良

アゴラ

中国の習近平国家主席は7月3日、2日間の日程で韓国を公式訪問した。ソウルの青瓦台(大統領府)で開かれた習近平国家主席と韓国の朴槿恵大統領の首脳会談では、両国関係の発展問題と共に北朝鮮の核問題について話し合われた。

北の核問題では、6カ国会議のホスト国中国は何とか北朝鮮を交渉テーブルに引き戻して非核化を推進したいところだが、中朝関係は現在、良好関係からはほど遠い。親中派だった張成沢氏の処刑後、中国側は金正恩第1書記に強い抵抗を感じているだけに、非核化を説得するパワーに欠けるだろう。


北消息筋は「北の非核化のカギを握っているのはもはや北京ではなく、日本だ」と言い切る。日朝両国間で拉致問題の政府間協議が再開した。日本側は拉致された全ての日本人の帰国を強く要求し、北側に拉致日本人の再調査を要求、北側が同意したばかりだ。日朝間の政府間交渉が始まると、韓国側は「韓米との協調を危うくする」と早速、神経質になっている。拉致問題が解決されると、日本は北側に相応の経済支援を約束するだろう。そうなれば、韓国の対北カードはその価値を失う、といった懸念があるからだ。韓国の尹炳世外交部長官は6月30日、「北朝鮮の核問題と関連した韓米日協調に影響を与える可能性がある」(聯合ニュース)と述べ、日朝交渉の動きを実際、強くけん制している。

ところで、韓国日報は3日、政府関係者の話として、「北が豊渓里の核実験場から要員や装備を撤収させたもようだ」と報じ、「北が中韓首脳会談を前に、核実験を当分実施しない姿勢を見せることで自国への圧迫をかわす狙いがある」との見方を報じている。それに対し、北消息筋は「北の目は中韓首脳会談の行方より日本側の出方に多く注がれている。北が核実験すれば、日本に政府間協議を中断すべきだという国際圧力が高まる。そうなれば、日本からの経済支援や制裁解除は難しくなる。北が核実験の実施を本当に見合わせたとしたら、中韓への配慮ではなく、日本の立場を考えた結果だろう」と分析している。

オバマ米政権は北に非核化処置をまず要求、平壌がそれに応じたならば経済支援などを実施するという路線だ。韓国も米国の対北政策を支持している。だから、北にとって、対日交渉が一層重要となる。北側は少なくとも日本との政府間協議中は核実験をしないだろうと予想出来るわけだ。

中韓両首脳は北に非核化を要求したが、北の非核化の鍵はもはや中韓両国の手にはなく、日本が握っているわけだ。もちろん、中韓両国はそのことを知っているが、両国の外交カードを放棄するようなことは公言しないだろう。反日外交を展開してきた韓国としては、米国を通じて日本側に日朝関係の急速な発展にブレーキをかける以外に手段がない。換言すれば、北問題で日本の外交が初めて主役を演じる時を迎えているのだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年7月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。