(その1)でエーリオとよばれるベンチャー企業がはじめた、クラウドTVサービスに対する米最高裁判決の反対意見を紹介した。現行法が想定していないような新技術、新サービスについては、裁判所の解釈によらずに法改正によって対応すべきである、つまり、「新しい酒は新しい革袋に」とする意見である。
著作権侵害を認めた結論はまねきTV判決と同じだが、新技術、新サービスに対する萎縮効果を招かないようにと配慮している点で、日米の最高裁判決は対照的である。その配慮から法廷意見(多数意見)に同意しなかった反対意見を先に紹介したが、法廷意見も萎縮効果に十分配慮している。
IからIVまでの4部構成からなる法廷意見は、最後のIVで判決が新技術、新サービスに対する萎縮効果を招かないと指摘しているので、その部分を解説を加えながら抄訳する。
被告エーリオおよびエーリオを支持する法廷助言は、エーリオの行為に送信条項を適用することが、ケーブルテレビ以外の技術(議会が適用の対象と考えていなかったような新技術を含む)に侵害責任を課すことになると主張する。われわれは、議会が送信条項をケーブルテレビ局などに広く適用することを意図する一方で、異なる技術まで制約したり、コントロールしたりすることを意図したわけではない点については同意見である。
解説(法廷助言制度):当事者以外の第三者が裁判所の友(Amicus Curiae)となって裁判所に意見(Amicus Brief)を提出する制度。
解説(送信条項):1976年の著作権法改正で加わった条文。(その1)のとおり視聴者の番組受信能力を高めるようなシステム提供者も実演者に含まれるとした。その上で、「送信」を次のように定義した。
「実演または展示を「送信する」とは、映像または音声を発信する地点から離れた場所で受信する装置またはプロセスによって、実演または展示を伝達することをいう。」
(途中省略)
事業者のサーバーにコンテンツを保存するサービスのように、ユーザーが著作物の送信以外に対価を支払っているようなサービスは、公の実演権を侵害しない。法廷助言31番の合衆国の法廷助言参照(合法的に購入した複製物を多くの便利な媒体で楽しむ機会を与えるクラウドサービスは区別すべきである)。
(途中省略)
最後にフェアユース規定が送信条項の不適切、不公正な適用を防止するのに役立つ点を指摘したい。ソニー判決(1984年)参照。われわれは送信条項や著作権法の他の条項が、未知の新技術にどのように適用されるかとの問に、現時点で詳細に答えることはできない。
解説(フェアユース規定):米著作権法が定める包括的権利制限規定。著作権法は著作物の利用に著作権者の許諾を要求して著作物を保護する一方、許諾がなくても使用できる権利制限規定を設けて利用にも配意している。わが国の著作権法はこの権利制限規定を個別に列挙しているが、米国は使用する目的がフェア(公正)であれば、許諾なしの使用を認める包括的権利制限規定として「フェアユース」規定を設けている。
解説(ソニー判決):フェアユース規定をめぐって争われた代表的な判例。映画会社はビデオテープレコーダー(VTR)「ベーターマックス」を売り出した米国ソニーを著作権侵害で訴えた。ソニーはVTR購入者が昼間のテレビ番組を録画しておいて夜視聴する、つまり「タイムシフティング」(視聴時間の移動)するためなので、フェアユースに当たるとした主張した。1984年、米最高裁はこれを認める判決を下した。その後の新技術、新サービスをめぐる訴訟に大きな影響を与え、ハイテク業界にとっては「マグナカルタ」(大憲章)ともよばれる画期的な判決だった。
(途中省略)
エーリオのサービスについて詳細に検討した結果、Fortnightly事件およびTeleprompter 事件で争われた、ケーブルテレビシステムのサービスに極めて類似していることが判明した。1976年の改正によって著作権法がカバーするようになったサービスである。仮にエーリオのサービスとの相違点があったとしても、エーリオのサービスがケーブルテレビサービスに類似しているという本質は変わらない。それらはエーリオのサービスを、現行著作権法でカバーされていないサービスであるという結論に導くような相違点ではない。
以上の理由で、われわれはエーリオが原告に著作権がある作品を送信条項に定義するとおり、「公に」「実演した」との結論に達した。
解説(Fortnightly事件およびTeleprompter 事件):(その1)で紹介した1968年と1974年の最高裁判決。ケーブルテレビのさきがけとなるようなサービスを提供した事業者に対して、最高裁は公の実演権を侵害していないと判定した。これを受けて、議会が1976年の法改正で送信条項などを追加して、ケーブルテレビ局による地上波TV番組の再送信行為も公の実演にあたるとした。
以上、ケーブルテレビ局の再送信行為も公の実演にあたるとした1976年の法改正が、エーリオのサービスに対してもあてはまるか否かの判断で、イエスとする法廷意見とノーとする反対意見に分かれたが、新技術、新サービスに対する萎縮効果を招かないようにとの配慮は両意見に共通している。
対照的にまねきTV判決にはそうした配慮は全くない。その点についてエーリオ判決と対比しつつ(その3)で紹介する。
城所岩生