アイスクリームを食べる「幸せ」 --- 長谷川 良

アゴラ

ウクライナ紛争が激化してきた。キエフ政府と親露派間の対立は戦闘状況に入ってきた。ウクライナ東部ドネツク州のロシア国境近くで7月17日、マレーシア旅客機が墜落した。ロシア製ミサイルによって撃墜された可能性が高い。真相が明らかになれば、ロシア側は窮地に陥るだろう。欧米諸国の対露制裁は次第に本丸に迫ってきている時だ。プーチン露大統領の出方が注視される。南スーダンは2011年7月、イスラム教主導のスーダン(北部)から独立したが、昨年7月解任されたマシャール前副大統領が同年12月14日、軍クーデターを行い、内紛が勃発し、多数の犠牲者、避難民が出ている。シリアではアサド大統領は3選の就任式を行ったばかりだが、国内はアサド政権と反政府間の戦闘が続いている。3年に及ぶ内戦で既に17万人が犠牲となったほか、多くの国民が隣国に避難している。


一方、イラクとシリアの一部を占領する「イラクとシリアのイスラム国家」(ISIS)の指導者アブーバクル・アルバグダーディは6月末、シリアとイラクにまたがるイスラム帝国建設を宣言し、その指導者はカリフを名乗り、イスラム教徒に服従を求めている。イラクではシーア派のマリキ政権が3選を受け、政権の維持を主張しているが、イラク国内はシーア派のマリキ政権、スンニ派、そしてクルド系勢力の3派に分裂されている。アフリカの最大人口を誇るナイジェリアのイスラム過激派グループ「ボコ・ハラム」(西洋の教育は罪)は多数の国民を虐殺している。

そしてイスラエル軍は3人の宗教学校の学生殺害事件を受けガザ区のイスラム根本組織「ハマス」に対して空爆を行っている。一方、、ハマス側もパレスチナ人青年の殺人に抗議してミサイルをイスラエル側に打ち込んでいる。イスラエルとパレスチナ間で再び戦闘が始まった。イスラエル側は地上軍をガザ区に動員させようとしている。

残念ながら、もっと多くの紛争があるだろう。世界は紛争に満ちている。世界の平和実現を標ぼうしてきた国連は今回もその無能力を示し、紛争解決能力がないことを露呈している。国連に紛争解決へのイニシャティブは期待できず、せいぜい、米国ら加盟国が決定した職務の下請け業者に過ぎなくなった。冷戦後、唯一の大国に君臨している米国はイラク、アフガニスタン紛争地域から軍を撤退し、「米国は世界の警察官の役を演じない」と早々と宣言している。紛争の火は広がっているが、その火を消化する機関、国がないのが現状だ。

米政治学者フランシス・フクヤマ氏の著書「歴史の終わり」がベストセラーとなった時期はひょっとしたらまだ希望があった。世界は新しい希望と期待に満ちた時代を迎えると早合点する人々もいたが、それは束の間だった。世界情勢は閉塞感で満ちてきた。欧州は財政危機に陥り、その対応で追われ、人々は失望し、多くの若者は失業者となり、老人たちは年金体制の崩壊の音を聞いている、といった具合だ。

どこに希望を見出すことができるだろうか。「宗教はアヘン」と断言した共産主義世界観は崩壊したが、国民を精神的に支えるべき宗教は久しく死刑宣告を受けている。物質主義、世俗主義が席巻する現代社会では宗教に耳を貸す人は少なくなってきた。世界に12億人の信者を誇るローマ・カトリック教会の聖職者の2%が小児性愛者といわれる一方、聖職者による未成年者への性的虐待事件は世界の教会で発覚し、教会への信頼性は完全に地に落ちた。心の支えを求める人々は放浪している。世界で毎年、自殺者が増加し、医療用麻薬、合成麻薬の乱用が拡大、それに溺れる人々が増えてきた。米物理学者ミチオ・カク教授の「未来の物理学」を読めば、未来の科学の発展に希望が湧いてくるが、科学が発展しても肝心の人間の心が乾燥しきっているならば、人は幸せとはいえない。

このように書いていくと、明日にも世界が消滅するのではないか、といった思いが強まり、悲観的になる。

「あなたは幸福を買うことはできないが、アイスクリームを買うことはできる」……、店で買ったアイスクリームの入った箱の上にこのように書いてあった。このアイスクリーム屋さんのキャッチフレーズを読んだ時、新鮮な感動を覚えた。アイスクリームなら買うことができるかもしれないからだ。しかし、問題はそれで本当に幸福か。子供ならばアイスクリームを食べることが出来れば嬉しいだろう。体重の増えるのを心配する若い女性ならば「そうね」と悩みながらも、「やはり暑いときはアイスクリーム!」というだろう。それでも幸せが身近にあるという発見は喜びだ。暑い中、働いている人に アイスをかって持って行ってあげたらきっと大喜びするだろうし それで自分も嬉しくなる。

個人、家庭、社会、国家、民族、世界まで、その幸せはそれぞれ次元が異なるが、「為に生きる」ことを実践していく以外に幸せの道はないとすれば、先ず、個人的レベルで「為に生きる」ことを実践すべきだろう。書くのは簡単だが、実践は難しい。自分の足元から できることからやり始めよう。暖かい言葉 笑顔一つでも人は幸せを感じるはずだから。閉塞感が覆う社会だからこそ、アイスクリームを買える幸せを再発見したいものだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年7月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。