世界経済の「筋力」はどれほどたくましくなっているか --- 岡本 裕明

アゴラ

発表された6月のアメリカの住宅着工件数はマイナス9.3%と「驚くべきほどの悪化」(TD Bank)となりイエレンFRB議長が以前から懸念していた「アメリカの景気回復で唯一の不安材料」がまたしても頭痛の種となったようです。

不動産の売れ行きの低迷具合と裏腹に自動車は明らかに売れすぎ。与信のハードルが下がっているとされ、オートローンがしやすいことが自動車販売を押し上げているとも言えます。同じことはクレジットカード会社がやはり与信をかなり所得の低い人にまで出しているほか、学生ローンも破たん懸念が出ているようです。

このまばらなアメリカの景気先行きを占う色合いのストーリーはどうなるのでしょうか?


住宅バブルは2006年のピーク後、サブプライム問題で本来持てない人にも住宅の夢を与えすぎた金融システムが問題となりました。結果として金融機関は当局から厳しくその責任を追及され、大手行は巨額の罰金が科せられつつあります。特に悪質とされているシティバンクとの和解も近く成立するものと思われますが、その金額は150億ドル前後(1兆5000億円)とも言われ、銀行の収益をすっ飛ばす状況になりうるのです。銀行としてはこれ以上の当局とのいざこざは避けたいこともあり、金融機関を中心に住宅のローンの与信については厳しく審査し、あのような過ちを二度と繰り返さないように努力しています。そのため、4-6月期の大手各行の住宅ローンは前年同期比で5~6割も減っているのです。

ところが金融緩和で金余りになっていることは事実。MBS(住宅ローン担保証券)がダメでも投資家は高い利回りを求め、世界をマネーが徘徊しました。南ヨーロッパのかつて問題になった諸国の国債価格が上がった(利回りは低下)のもそのようなうろつくマネーの仕業であります。そのマネーは本国アメリカにおいて「与信」というもっとも稼ぎやすい所に再び戻ってきたというのがシナリオであります。

そして与信は住宅からオートローン、クレジットへと変っていきます。まさに「持てない人」に住宅ほどではないけれど夢を与えているその構造は以前と全く変わらないということです。つまり、懲りないマネー社会という言うのが私の感じる今のアメリカです。

ではアメリカは金利を来年早々本気であげる気なのか、といえば意見は分かれています。表面的な統計からは確かに好調なアメリカを見て取れますが、金利を上げる好調さなのか見極めは難しいと考えています。

個人的には早期利上げに懐疑的であります。賃金の上昇率は低く、作られた消費回復というイメージがついて回ります。確かにアメリカのモールあたりの活気は以前に比べて戻ってきている気はします。しかし、お金をバンバン使っていた2005年頃とは明らかに違う小さな財布と小さな消費の幸せという感がします。

金利を上げにくくするもう一つの理由は欧州と日本がまだ金融緩和の真っただ中、アメリカだけ上げる影響が読み切れないということでしょうか? ドルという基軸通貨は世界のマネーの血液であります。その血液を送り出す心臓が以前ほどないということが世界経済に与える影響は計り知れません。特にブラジルなどはサッカー問題から2年後のリオのオリンピックに相当の影響が出るのでは、という懸念すらあります。

とすれば金利は低く、一部のローンについて規制をかけていくというのがあり得るシナリオではないかと思います。カナダでは住宅ブームの影響で個人の負債率が160%を超え、景気が回復しないのに金利を上げるのではないかとしきりに噂されました。160%とはアメリカの住宅バルブのピーク時と同じ水準です。

そこで打ち出したのが中央銀行と財務省が共同で発表した住宅ローンの厳格化であり、借り手のハードルを大幅に引き上げました。この時のカナダ中銀総裁はマークカーニー。つまり今のイングランド銀行総裁であります。中銀総裁の中でも逸材で現に欧州ではイギリスだけ調子が良い状態となっているのは一因に総裁の手腕とも考えられます。

イエレン議長もそのあたりのことは当然視野に入っているかと思います。以前も書きましたが資本家がいくらホクホク状態になっても労働者階級にその恩恵が回らない限り経済は回りません。いまの金融頼みのアメリカ経済は悪い表現をすれば資本家が労働者に飴玉を与えているような構図であります。経済の筋力は言うほど十分ではない、というのが私の感じるところであります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年7月19日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。