時間切れ近づくカリスマ創業者の交代時期 --- 岡本 裕明

アゴラ

IDC大塚家具。新宿ビックロの裏に構える巨大なショールームは一歩足を踏み入れると営業マンが待ち構えていたかのようにすり寄り店を出るまで一人にさせません。「今日はどのような家具をお探しでしょう?」と言われ気軽に「ソファ」とでも言おうならば「革張りですと…」と言いながら見せられるのは50万円では安物の部類になるのではないかと思われるほど高級品がずらり。「当店では一切値引きをしません」というそのポリシーにデパートでも時として値引きさせる私としては内心「駆け引きできないのではつまらぬ」という気持ちが先立ってしまいました。(笑)


その大塚家具は創業者の長女が5年前から社長として采配を振るっていたようですが、正直、業績は振るっていません。社長就任の2009年という年はリーマンショックからの立ち直りで2013年は日本全体が「夢よもう一度」と盛り上がっていたはずですが、売り上げは回復できていません。更に直近では既存店売り上げでみると4月は101%程度で消費税引き上げの影響はなかったとみてもよい状況だったのですが、5月は89%、6月に至っては83%と激しく下落、先行きの回復の目途が立たなかったのかもしれません。これを受けて創業者の父親が社長解任を行い、社長に復活しました。

家具については語るほど知識を持ち合わせていませんが、商品の二極化は激しく進んでいます。ニトリやイケヤに代表される価格追求型の家具と欧州家具と称する7ケタの値札が当たり前の青山あたりにショールームがある高級家具に分類できるのでしょう。ただ、家具というのはマークアップ(利幅)が非常に大きい商品の一方でショールームは広大な場所を必要とするため賃料やそれこそ大塚家具のようにあきれるほど多い店員の人件費で食われてしまうのです。

今から7、8年前、バンクーバーで世界中の家具屋から直接購入できるシステムの会員になっていたことがあります。そこそこお世話になったのですがこれは本当に安いです。いわゆるショールーム価格の三分の一ぐらい。仮に日本で家具が欲しければ海外の家具店から直接買って輸入した方が安くつくと思います。ただ、傷などがついていた時の処理は面倒ですが。

また家具屋の商品陳列はイケヤに代表されるようにその家具がその部屋でどう生きるかイメージさせ、抱き合わせでほかの商品も売るぐらいの逞しさがないとだめでしょう。そのあたりが私の見る同社の改善点ですが。

今日は大塚家具の話をするつもりではなく、創業者のイライラについて触れてみたいと思います。伊勢の赤福の社長解任事件も今年、ニュースになっていましたが私は創業者のイライラの頂点といえばユニクロの柳井正社長をおいてほかにないと思っています。

柳井社長は2005年に玉塚元一氏を解任し、社長に復帰。当時の記者会見ははっきり覚えていますが、玉塚氏に辟易としている柳井氏の態度にかなりびっくりしました。その玉塚氏、その後、苦労しながらも立派に経営者街道を走り、今やローソンの社長となっています。多分ですが、柳井氏は誰が社長になっても満足できないタイプだと思っています。それこそ死ぬまで実権を握り続けるでしょう。

同じことはセブン&アイの鈴木敏文会長や自動車のスズキの鈴木修社長もそうかもしれません。

なぜでしょうか? 一つに自分が築いた城と御家人の世界は盤石な情報網が敷かれているということであります。これらカリスマ創業者が一線を退いても御家人から「会長、実は…」という耳打ちは日常茶飯事。その度に血圧が上がるというのがだいたいのあらすじでしょう。結果としてそれは「内紛」という言葉でニュースとなって表面化するのがオチなのです。だからそれらカリスマは死ぬまで実権を握るか、傀儡の社長を立てるということなのです。

ではなぜそれらカリスマ創業者はいくつになってもこれだけうねり、複雑化した社会の中でも第一線として活躍できるのでしょうか? それは優秀な取り巻き、つまり、御家人達が作り上げる組織力だと思います。悪く言えば北朝鮮の金家と一緒で会社の実権が極めて集中し、否定も批判も反論もない世界なのであります。

ところが運悪く、経営者寿命がせいぜい80~85歳を最長老レベルだとすればどうやってこれからこの御家人たちが権力闘争せず、一つのベクトルを作り出せるのか想像を絶します。それがあと10年ぐらいのうちに次々と起きるということでしょう。まさに戦国時代が近づいてきたというのが日本型経営の弱い部分の一つであります。

ちなみに大塚家具の創業者は72歳、柳井正65歳、鈴木敏文81歳、鈴木修氏に至っては84歳であります。そういえばスズキはフォルックスワーゲン社との持ち株バトルも解決していませんが、私にはVWが高齢となった鈴木社長のことを計算に入れていることは間違いないとみています。

政治家ですら若返っているのに案外経営者は権限移譲が進まないということでしょうか? 日本の社会はやはり難しいようですね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年7月26日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。