理解できない中韓を理解するブックガイド

池田 信夫
支那論 (文春学藝ライブラリー)

恒例の夏休みブックガイドだが、今年の前半は中韓との関係がまたもめたので、それに関連する本を集めてみた。「なぜ日本は中韓と仲よくできないのか」という話がよくあるが、これは間違いだ。中韓はアフリカぐらいまったく違う文明圏だということを認識し、相互理解できないことを理解することが出発点である。

この点を100年前に明らかにしたのが、内藤湖南の『支那論』である。西洋を基準にして中国を論じるのではなく、近代国家とはまったく異なる中国の歴史に内在して理解する彼の史観は、ヨーロッパ中心主義への批判が強まる歴史学界で、いま世界的に再評価されている。


こうしたアジア見直しの中心となっているのが、ポメランツなどの「カリフォルニア学派」で、Rosenthal & Wong “Before and Beyond Divergence”はその最新の成果だ。そういう成果をまとめたジェイクス『中国が世界をリードするとき』も、荒っぽいがおもしろい。

こうした欧米の動きに対して、日本からも内藤を継承する動きが出ている。岡本隆司『近代中国史』や、平野聡『「反日」中国の文明史』 は、日本の中国学の最新の成果だ。

中国文明は日本にも深い影響を与えたが、それはついに定着しなかった。小島毅『近代日本の陽明学』は、儒学がいつの時代にも知識人のファッションでしかなかった日本の歴史を描いている。古賀勝次郎『鑑の近代』は、法の支配の伝統をまったくもたない中国より日本のほうが未来は明るいとしている。

そもそも「東洋文明」とか「アジア精神」というのは存在するのか。北一輝や大川周明の大アジア主義は戦争への道を開き、『近代の超克』は単なる夜郎自大だった。むしろ日本はアジアに見切りをつけ、西洋文明の一員になるべきだという福沢諭吉の脱亜論のほうが現実的だろう。