シリア、イラク北部に侵攻し、キリスト徒やクルド系民族民族宗教ヤズィーディ信者など少数派民族を虐待するなどの暴挙を繰り返しているイスラム教スンニ派過激派テロ組織「イスラム国」(IS)はシャリアを標榜するイスラム国家建設を宣言し、イラク北西部で快進撃を続けている。西側メディアによれば、ISの兵力は推定1万5000人から2万人とみられているが、イラク国軍やクルド自治軍も苦戦を余儀なくされている。オバマ米政権は少数民族の保護を理由にISへの空爆を繰り返しているが、「ISの軍侵攻を阻止できたかは分からない」(ワシントン大統領府報道官)と受け取られている。
なぜ、ISは強いのか。オーストリア日刊紙プレッセは8月13日、「ISの快進撃の理由」というタイトルの記事を掲載し、ISの強さの理由を3点挙げている。以下、紹介する。
- ISは占領した地域の少数派民族やシーア系住民の首をはね、そのシーンをビデオに撮って世界に流している。そのため、イラク国民もISがいかに残虐か知り、恐怖を感じている。だから、「ISが侵攻してきた」と聞けば、住民は真っ先に逃げ出していく。ISがイラクの大都市モスルを進攻した時、イラク軍人はISと戦うのではなく、軍服を私服に着かえ、武器を置いて逃げ出したという。それほど、ISはイラク国民ばかりか、国軍内でも怖れられている。すなわち、残虐なシーンを公開することで敵陣の戦闘意欲を喪失させる心理作戦が成功しているわけだ。
- ISはシリアではアサド政権の軍から武器を奪い、イラクのモスル市ではイラク国軍が放置した最新米国製武器を大量に手に入れた。西側メディアの推定では、約150億ユーロ推定の米国製武器がISの手に落ちたといわれている。イラク北部のクルド人勢力はISに対抗したが、勇敢な兵士を多く抱えているクルド人勢力もISの米国製武器の前では敗走を余儀なくされている。
- ISには戦争経験の豊富なベテラン兵士が多い。アフガニスタン戦争を体験し、チェチェン紛争でロシア軍と戦った兵士がISに加わっている。彼らは戦略に長けている。同時に、自爆テロを決して躊躇しない。彼らは死んだら天国に行けると固く信じているからだ。
すなわち、イラクは今日、米国製の最新武器で武装し、戦闘意欲が高く、心理作戦、戦略にも長けているイスラム過激テロ部隊と対峙しているわけだ。
イラクの首都バクダッドではシーア派マリキ政権が政権維持に腐心し、政権争いを行ってきた。アバディ国民議会第1副議長を首相とする民族統合政権がようやく発足する見通しとなったばかりだ。その間にISはその強さを如何なく発揮し、占領地を拡大させてきているのだ。
イラクでは民族統合政権が発足できたとしても、ISの軍事侵攻を自力で阻止できるか不明だ。原油産出国のイラクが過激派テロ組織のISに完全に掌握されるといったシナリオも排除できない。欧州連合(EU)は15日、臨時外相理事会を開催し、ISと戦闘を繰り返すクルド人勢力への武器供給問題などを話し合う予定だ。ISが快進撃を続けるようだと米軍の再投入も考えられる。イラク情勢には早急な対応が願われている。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年8月15日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。