偽善の朝日新聞に「女性の人権」を説く資格なし --- 梶井 彩子

アゴラ

朝日新聞の「慰安婦報道検証」記事を見て何より驚いたのは、二日に渡り、四面を使って検証を展開したにもかかわらず「謝罪」の二文字が一切書かれていないことだった。

朝日新聞は虚偽を世界的に宣伝し、そのことによって(現在と過去を含めた大勢の)日本人がどれだけの不名誉を被っているか、まるで自覚がないらしい。「女性を性奴隷にした」などという無実の罪で貶められる日本軍兵士の無念を思えば、謝罪すらなく自己弁護に終始した朝日新聞の報道を絶対に許すことはできない。


朝日新聞は今回の検証記事を書くにあたり、吉田清治氏がかつて「二百人もの人攫いをした」と述べた済州島へ、今さらながら取材に赴いている。そこで四十人あまりに話を聞いたが「人攫い」の証言は得られなかったため、吉田証言を虚偽と結論付けている。

済州島の方々には心からお礼を申し上げたい。「現在の韓国世論の雰囲気の中で、よくぞ本当のことを証言してくださった」と。もし彼らのうち一人でも「そんなこともあった」などと証言していたら、朝日はこれさいわいと吉田証言の虚偽を認めなかったに違いない。

「狭い町だし、そんなことがあったら黙ってないよ」――フジテレビ「新報道2001」の取材に対し、済州島住民の女性はこう答えている。済州島住民は偽の証言によって得られる政治的ポジションや利益よりも、先人の名誉を護り、真実の歴史に向き合う当然の態度を取って見せた。このことの価値、尊さは、この期に及んで居直って憚らない朝日新聞には到底分からないだろう。

朝日新聞の「強制連行」報道は「多くの女性が連れ去られるのを黙って許した」という不名誉によって朝鮮半島の人々をも貶めて来たのである。訴訟を起こされても仕方がない。朝日新聞は恥を知るべきだ。

朝日新聞は八月五日の一面で「慰安婦問題の本質 直視を」と題し、編集担当杉浦信之氏(取締役)が「女性が尊厳を踏みにじられたことが問題の本質」と述べている。

近年、「強制連行」の嘘が暴かれ始めると、朝日新聞や「強制」を主張していた吉見義明教授は「強制とは何も物理的に連れ去ったということではなく、本人が意図しない場合はすべて〝強制〟」と言い出した。さらには「傷ついた女性がいること、そのものが問題だ」とし、河野談話と相まって「強制連行」を強調してきた問題の論点を、「女性の人権問題」に巧みにすり替えて来た。

だが、朝日が吉田清治を担ぎ出し、「慰安婦の女性は親に売られたのではなく、日本軍に組織的に連れ去られて、性奴隷にさせられた」というストーリーを流布したことは罪深い。

〝なりすまし〟を除く本当の元慰安婦たちは、確かに「自分の意図に反して」親に売られ、あるいは業者に売られ、慰安婦になったのだろう。意に反してそのような人生を送られた女性たちには、心からの同情を禁じ得ない。「貧しい家族を救うため」「自分も戦争で役割を果たした」などと考え、自分の人生にある一定の折り合いをつけてきた女性もいただろう。私はそんな女性を、同じ女性として逞しく、美しく思う。

時代に流され、慰安婦という仕事についた女性たち。戦いで身体共にすり減らす兵士に一瞬でも心の安らぎを与え、現地の女性に対する性暴力を防ぐ防波堤となった慰安婦の女性には「慰謝」の気持ちを持たなければならない。それは当時、少なからぬ日本軍兵士が慰安婦に対して抱いていた気持でもあったと思うからだ。

ところが朝日新聞が長いスパンをかけて「挺身隊の名で二十万人もの女性が強制的に連れ去られた」かのように報じたことにより、元慰安婦たちの心境や証言内容に少なからぬ影響が出た。つまり「慰安婦=強制連行」という図式により、女性たちは本来の体験を正直に話せなくなったのである。

元慰安婦自身は「貧しさによって親に売られた」体験しかしていなかったのに、講演会やデモの場、証言をする場面で彼女たちが「もっと悲惨な体験」を期待されるようになったであろうことは想像に難くない。金学順さんなどは「親に売られた」と話したにもかかわらず、「挺身隊の名で慰安婦にされた一人」と植村記者の記事で報じられてしまった。

ましてや、日韓間の政治問題として燃え上がり、さらには「性奴隷」などの表現を伴って国際的な問題に発展して行く過程である。「親に売られた」「キーセン学校出身」などという「ありふれた話」は、十分に悲惨な話にもかかわらず、聴衆や支援団体関係者から「もっと悲惨な話」「軍の責任を問うような話」を求められるようになったのではないか。

NHK局員時代、慰安婦に関する番組を担当した池田信夫氏によれば、「議員になる前の福島瑞穂氏が、元慰安婦の女性に番組控室で〝振りつけ〟をしていた」と述べている。今となってはどのような振り付けがなされていたか、確かめようもない。だが、運動として慰安婦問題を展開する過程においては、「軍人が刀を突き付けて私を連れ去った」などという悲劇性の高い証言が重用される。当然、「慰安婦として勤める中で、運動会や買い物も楽しんだ」などという米軍の聞き取り調査のような具体的でリアルな話は封じられる。

元慰安婦たちの証言がコロコロと変化した理由として、運動団体や韓国世論から彼女たちに「過激で悲惨話をしなければ運動団体から相手にされない」との有言、無言の圧力がかかり、話を盛ることを半ば〝強制〟された可能性は十分考えられる。朝日の偽善こそが、女性が嘘をつかざるを得ない状況に追いこんだのである。

吉見義明氏は八月六日の紙面で〈被害者の声にきちんと向き合おうとしない日本政府〉と書いている。だが元慰安婦の人生にきちんと向き合わなかったのは、ことさら強制連行を強調し彼女たちの体験の「悲劇化」を強いた朝日新聞だろう。

同記事の「旧ユーゴやルワンダの女性への集団レイプと慰安婦問題の混同」もおかしな話だ。元慰安婦の女性たちはレイプの被害者ではない。これこそ公娼制度があった時代性を無視し、様々な事情で売春業に従事してきた女性に対する蔑視である。

朝日新聞は「慰安婦問題の本質 直視を」でも〈一部の不正確な報道が、慰安婦問題の理解を混乱させている、との指摘もあります。しかし、そのことを理由とした「慰安婦問題は捏造」という主張や「元慰安婦に謝る理由はない」といった議論には決して同意できません〉と書く。

だが、これも論点のすり替えだ。朝日新聞がことさら「日本の罪」「国家犯罪」を強調したことで、「強制連行」の報道に疑問を持った日本人の態度は硬化した。当たり前だろう。やってもいない強制連行を認め、「元慰安婦」を名乗る女性たちの証言を検証もなく鵜呑みにし、名誉を貶められた上、末代までの謝罪や賠償を要求されるいわれはない。

むろん元慰安婦の女性たちの証言を検証することは、人格・人権の否定にならない。むしろ元慰安婦の体験そのままの証言が、正確な検証を経て伝えられていれば、今のような混乱、対立は起きなかっただろう。歴史的事実に立脚して問題を報じていれば、日韓関係にもここまで大きな亀裂は入らなかったのではないか。

自然とわき上がったであろう元慰安婦の女性たちへの同情心を「嘘」の報道によって抑えつけ、女性の人権を傷つけ、日韓関係を悪化させたのは朝日新聞の捏造報道である。朝日が論点を逸らしたところで、彼らの「罪」は消えない。朝日新聞に女性の人権を説く資格はないのである。

梶井 彩子
1980年生まれ。中央大学卒業後、企業に勤める傍ら「特定アジアウォッチング」を開始。「若者が日本を考える」きっかけづくりを目指している。月刊『WiLL』などに寄稿の他、『韓国「食品汚染」の恐怖』や『竹島と慰安婦―韓国の反日プロパガンダを撃て』など日韓関係に関する電子書籍などを無料公開中。