もっとリンゴを食べて --- 長谷川 良

アゴラ

ロシアのプーチン大統領は8月6日、欧米諸国の対ロシア制裁に対抗し、5か国・地域の農産物などを1年間禁輸する大統領令を公布したが、ロシアに農産物を輸出している欧州の農業国の生産業者から欧州連合(EU)の本部ブリュッセルに対し、「制裁による損害を補填してほしい」という声が高まってきている。

当方が住むオーストリアでも農産物生産業者から次第に深刻な声が聞かれだした。オーストリアの対ロシア輸出総額は約2億4000万ユーロだが、そのうち農産物関係の対ロシア輸出額総額は約1億ユーロだ。だから制裁で失う約1億ユーロをどのようにカバーするかが同国のアンドレ・ルップレヒター農業相の急務の課題となっている。


同相は18日「国民が1週間に1個多くリンゴを食べてくれれば問題は解決する」と国民に訴えた。農業相の奇抜なアイデアに対して同国日刊紙プレッセは“消費愛国主義”と呼んでいる。

ちなみに、EU28か国のリンゴ総収穫量は約1200万トンと推定されている。特に今年はよく雨が降ったこともあって収穫高は増加した。例えばオーストリアでは今年21万7000トンの収穫があった。これは2013年に比べて20パーセントの急増だ。

食物繊維やビタミンC、ミネラルが豊富なリンゴは健康に良く、リンゴを欠かさず毎日食べることは国民にとってもいいことだが、今まで1日2個リンゴを食べていた国民が3個食べたところで対ロシア制裁の補填が本当に可能だろうか。農業相は、職員食堂を抱える大企業や大学の食堂などの関係者にリンゴを大量に使ってほしいと懸命にアピールする一方、将来の農産物の輸出先として中国、中東諸国、北アフリカ諸国への市場開発に乗り出している。

モスクワ発のニュースによると、ロシアでは欧米からの肉類、農産物が来ないため、農産物不足と価格の急騰が出てきているという。いずれにしても、農産物の制裁は輸出国と消費国双方の国民の腹具合に変調をもたらし、懐を一層痛めるものだ。制裁が科せられる契機となった問題の早期解決が願われる。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年8月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。