第2次安倍改造内閣が動き出した。今回の目玉の一つは、アベノミクス第2弾の大きな柱と位置付ける「地方創生」であり、人口減少や地方の衰退といった課題に国を挙げて取り組むため、地方創生担当大臣を新設し、石破茂氏が任命された。また、地方都市の活性化等を図るため、「まち・ひと・しごと創生本部」(本部長=総理)を発足させ、秋の臨時国会に法案を準備する方針だ。
しかし、人口減少の衝撃は短期的な政策対応で乗り切れるものではない。国立社会保障・人口問題研究所が予測(「将来推計人口」(平成24年1月)、出生中位・死亡中位)によると、2014年で約1.26億人の人口は2083年に0.63億人になり、その間、毎年90万人程度の人口が消えていく。
千葉市の人口は現在約96万人、大阪府堺市の人口は約84万人であり、このような自治体が毎年一つずつ消滅していく状況に近い。自治体が消滅するからといって地方が消滅する訳ではないが、人口減少の衝撃が大きいことに変わりはない。
このような状況の中で、今後益々重要となる資源は、各地域の公共政策を担う高度人材である。つまり、政策立案の根幹である頭脳や発想こそが最も重要な資源であり、そのような人材を公共セクターにどう供給するかが、中長期的に地方創生のカギを握るはずだ。
にもかかわらず、号泣会見が話題となった県議会議員をはじめ、最近、地方議員の不祥事が後を絶たない。この背後にある問題の本質は、公共政策を担う高度人材の育成のあり方に関する議論がこれまでは不十分であり、その供給体制の重要性に注目が集まらなかったことに起因するのではないか。
この関係で重要なカギを握るのは、以前のコラム「ネット選挙の課題を考える」でも取り上げた提言、つまり、議員などの人材供給ルートの開拓・多様化を図る観点から、会社員や公務員・大学教官等の身分を留保した形での議員兼職を認める「政界出向制度」や「一時的な休職の形で議会活動を認める制度」の導入である。
しかし、公共政策を担う高度人材を厚みのある形で供給するためには、このような制度の導入のみでは不十分であり、日本経済が抱える課題につき、専門的かつ論理的な視点から解決策を模索可能な能力をもつ人材の育成機能も強化する必要がある。
明治維新から最近まで政策立案は最高の頭脳が集まる中央官庁が独占し、その人材供給を担ったのは主に東大法学部(官僚養成機関)である。高度成長期までは欧米に政策立案のモデルがあったが、バブル崩壊以降、政策が混迷する中、他の諸外国と同様、公共政策の修士号や経済学博士号等のより高度な専門知識を身に付け、政策立案を行う必要性が急速に高まっている。
このような本質的な問題を認識し、大学でも政策創造研究科や公共政策研究科といった専門職大学院を設置する動きが加速したが、民間の政策シンクタンクでも、日本版ハーバード・ケネディ・スクールを目標として公共政策を担う専門的な知識(例:経産省出身の元官僚が設立した「青山社中」の公共政策スクール。詳細はこちらで募集〆が近いが、政治・行政、経済・財政、外交・安全保障、医療・社会保障のプログラム)を提供する動きが出てきている(下写真は講義風景)。
その際、特に重要なのは公共政策を担う人材の多様性やその育成の競争であり、上記のようなプログラムには、男女を問わず、中央官庁の行政官、都議・地方議員、政治家秘書のほか、公共政策に関心を有する経営者や会社員・NPO職員・医師も働きながら多く参加しており、その点で民間の政策シンクタンクの動きは極めて重要である。
また、公共政策を担う人材は必ずしも、行政官や政治家だけでない。変革を求め、社会を意識しながら地域で起業するというのも立派な「公共」への奉仕であり、上記の青山社中では、受講生にはむしろ民間人が多く、ケネディスクール同様にリーダーシップ教育にも力を入れている。
現状の衆議院議員の出身をみても、特定分野(都議や地方議員・政治家秘書・行政官)の出身が約6割を占めており、公共政策の厚みを増すためには、日本経済が抱える問題に関心を有する一般国民が公共政策の中身を学習し、政策立案市場に参入するための仕組みが重要である。そして、公共政策を担う高度人材をどう育成するかを深く考えなければならない。
(法政大学経済学部准教授 小黒一正)