外務省は韓国の情報戦に応戦せよ

池田 信夫

きのうの朝日の謝罪は、実はコアの部分では降伏していない。産経も伝えるように、木村社長は「われわれはこの問題を、大事な問題、アジアとの和解問題、戦地の中での女性の人権、尊厳の問題として、これからも明確に従来の主張を続けていくことは、いささかも変わりません」と強調している。


これは彼が社内向けメールで表明した「偏狭なナショナリズムを鼓舞して韓国や中国への敵意をあおる彼らには屈しない」という決意をやわらかく言ったものだろう。朝日新聞の子会社の番組「報道ステーション」では、元外務省欧亜局長の東郷和彦氏が登場し、こう言い放つ。

この点は、世界の大勢は、狭義の強制性があるかないかについて、ほとんど関心がないという点につきる。アメリカの世論は、今、自分の娘がそういう立場に立たされたらどう考えるか、そして「甘言をもって」つまり「騙されて」連れてこられた人がいたなら、それとトラックにぶち込まれた人と、どこが違うのかという立場に収斂している。

この事実認識は正しいが、論理的にはナンセンスだ。人身売買は今でも世界中で行なわれているのに、なぜ70年前の日本軍の人身売買だけ問題にするのか、さっぱりわからない。これは「戦争犯罪」だから問題になったので、軍の強制連行を否定した段階で終わっているのだ。

しかし多くの民衆(特にアメリカ人)は、そんな細かいことを知らない。元国務省日本部長のケビン・メア氏も「今さら日本が強制性の有無を論じても勝ち目がない」といっていた。これが最大の壁だ。韓国人も、ここをねらって慰安婦像をアメリカ各地に建てている。東郷氏も、それが誤解であることは知っているのだが、あえて誤解を容認しようというわけだ。

ではどうすれば解決するのか。東郷氏も、かつての朝日のように「償い金を政府予算で拠出」して解決すべきだと、つかみ金を求める。そんなことをしても、また「日本が罪を認めた」と韓国が宣伝するだけだ。ロシアスクールの彼は、日韓の複雑な経緯を知らないのだろう。

ロシアと同じく、中国も韓国も全面的な和解は不可能という前提で交渉するしかない。アジア中部の専制国家の文化的遺伝子は日本とはまったく違い、仲よくできる相手ではない。それが福沢諭吉も内藤湖南も梅棹忠夫も説いたことだ。

こういう場合は、経済的な関係を保ちながら、政治的にはなるべくつきあわないのが最善だが、相手が世界に嘘を広めている場合は、日本もそれを打ち消す事実を伝えるしかない。今まで外務省は「話せばわかる」という方針で韓国外務省とやってきたが、向こうの国民やマスコミは話してもわからない。

アジアと和解できれば結構なことだが、日本政府はその努力は十分やった。そもそも日本は韓国に戦争被害を与えていないのに、日韓条約で5億ドル資金供与し、アジア女性基金という「示談金」まで出した。もう贖罪史観は卒業して韓国の「おねだり」は相手にせず、外交的な情報戦の敵と考えるしかない。

政府が「新談話」を出すべきだという片山さつき氏などの提言を政府は拒否しているが、この騒ぎを盛り上げた朝日新聞が「強制連行」を否定した以上、河野談話を見直し、世界に事実を説明すべきだ。