先週、メラビアンの法則に関する記事を2つほど投稿しましたが、思いの他の反響がありました。一方で、このような教えや定説にまつわるものには眉唾ものが多いことがご理解いただけたのではないかと思います。個別に、メッセージ、ご意見等をいただいた方には、御礼を申し上げます。
まず学術的にはメラビアンの法則は非言語コミュニケーション(Nonverbal communication)として広まった考え方です。
非言語コミュニケーションでは、バードウィステルの研究も良く知られています。「二者間の対話では、言語によって伝えられるメッセージは、全体の35%にすぎず、残りの65%は、話しぶり、動作、ジェスチャー、相手との間の取り方など、言葉以外の手段によって伝えられる」というものです。
ところが、本研究にも、「これはある特定の条件で実験した結果であり、一般的なコミュニケーションにそのままこの結果が適用できるわけではない」と、バードウィステルによって補足されています。興味深い研究ではありますが、この研究もメラビアンの法則と同様に、誇張して伝えられています。
●何故このような伝わり方をするのか
まず、これらの理論を引用する方のほとんどは、メラビアンの法則しかり、バードウィステルの研究しかり、成立した時期や背景について全く言及していません。研究内容を知らない方にとっては、最先端の理論に聞こえてしまうこともあるでしょう。この2つの研究が発表されたのは、1970年代の初めです。ちなみに、非言語分野の系譜について簡単にまとめると次のようになります。
非言語分野はチャールズ・ダーウィン「The expression of the emotions in man and animals」(1872)により成立し、その後に派生しました。1970年以降の研究として、レイ・バードウィステル「Kinesics and Context」(1970)、アルバート・メラビアン「Silent messages」(1971)があります。近年は、ジェラルド・ザルトマン「How Customers Think」(2003)が発表され「心脳マーケティング」(2005)としてHarvard Businessより和訳されています。
お分かりのとおり、43~44年前(約半世紀前)の学説を、あたかも現代でも使える理論のように紹介していることに問題があるわけです。当時はどのような時代だったのでしょうか?
まさに日本は高度経済成長真っただ中です。
次のような出来事がありました。
1)時事問題・万国博覧会開幕、よど号ハイジャック事件、パンタロンのブーム、アポロ月面着陸成功、沖縄返還、アンノン族、横綱大鵬引退
2)映画/漫画・猿の惑星、女王陛下の007、あしたのジョー、みなしごハッチ
3)ヒット曲・黒ネコのタンゴ、ドリフのズンドコ節、また逢う日まで
この時代の学説を、普遍的なものとして脈々と伝えている、研修講師、コンサルタントが非常に多いのです。仮に紹介するなら、過去の研究としてメラビアン理論があったこと、いまでは活用できないことを明確にしなくてはいけません。
●最近の先端理論は
非言語学の先端理論としては「How Customers Think」で紹介されている『人間が言語化できる情報は5%。残りの95%は言語化されない。言語化情報ばかりを頼りにし、情報の大半を取り逃がしてしまった結果、「的を射た発想ができない」「適当な判断ができない」「行動の勝手がわからない」といった事態に陥ることが増えてきているのである』(ザルトマン)が知られています。個人的には、この理論は非常に的を得ているように思います。
なお、何回も申し上げていますが、既にメラビアン博士は「間違った伝わり方をしており日常では使用できない」ことを発表しています。メラビアン博士のサイトには次の一文が記されています。
these equations are not applicable
研究者が、適用されないことを明言している理論です。最近では、学生向けの就活ゼミやセミナーで全く誤った教え方をしている方がいますので、何卒ご留意をいただければ幸いです。
尾藤克之
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