陰謀に乗せられた海外の人たちの考えをどう変えて貰うか?

松本 徹三

慰安婦問題では私は常になく怒っているので、その事を心配してくれる人も多いが、それにはそれなりの理由がある。私は、これまでこの問題を軽視しすぎてきた自分自身に怒っているのだ。

私も朝日新聞を攻撃しているが、もちろんそれは感情的なものではない。かつての進歩的文化人のセンチメント(論理的でないのでそう呼ぶしかない)をずっと引き摺ってきている朝日新聞の体質については、もちろん分かりきっていた事なので、今更特に論じる事もない。何故私が今朝日新聞への攻撃の手を緩めたくないかと言えば、彼等のこれからの行動が、海外の多くの人たちの誤解を解く為の少なくとも「一つの材料(攻め口)」にはなると思っているからだ。


海外の人たちは、もちろん完全に誤解しており、しかもその範囲は今もどんどん拡大している。韓国の活動家や、韓国政府、それに自らを「進歩的」と呼ぶ日本の一部のジャーナリストや悪徳弁護士たちが、繰り返し、繰り返し、あらゆる手を使って「如何に過去の日本人が悪徳非道だったか」を宣伝し続けてきたのに対し、それを是正しようとするような活動は殆どなされていなかったのだから、これは当然の帰結だ。いや、今後とも今のような状況が続けば、事態は更に悪化するだろう。

何故私が「悪化」だと言うかといえば、そもそも「嘘のはびこる社会は悪い社会」だし、このような状況によって何等かの利益を得る人は、その成功によって益々自信を強め、どんどん活動の範囲を広げる可能性があるからだ。そして、あまりの不条理さと自国の不甲斐なさに絶望した日本の一般大衆が、急速に右傾化する可能性もあるからだ。もちろん、これによって反中、嫌韓の国民感情も先鋭化するので、中・韓との関係も更に悪くなり、これは日本の安全保障や経済にも大きな打撃を与える。

という事は、我々はこれ迄に起こってきた事を今こそ深く反省し、具体的な対策を真剣に考えねばならないという事だ。もちろん、最終的な目的は「国際世論の転換」という成果を出す事だが、真実を更に究明する事は、その為の「鍵」でもあるという認識が先ずは必要だ。

私が自分自身で最も反省しているのは、「朝日新聞社の一部の記者や編集者がやってきた色々な事は、自分たちの以前からの『勘違いだらけの理想』の実現を求めての事」と、軽く考えていた事だ。つまり単なる「無責任なノスタルジア」の所産だと思っていた。しかし、もしそうなら、どうしてここまでの長い間、ああまで執念深く且つ組織的に、彼等は行動出来たのだろうか?

私は、池田信夫さんが最近示唆したように、「金丸訪朝時の80億ドル供与の空約束」「高木健一弁護士の1兆円発言」「植村記者の義母が会長を務める韓国の団体の詐欺事件」「慰安婦と女子挺身隊を何としても結びつけようとしている日韓両国の関係者の一連の行動」は全て繋がっていると考えるに至っている。その仮定に基づけば全ての事に説明がつき、そうでなければ説明がつかないからだ。もちろん、これは推測以外の何者でもないから、この問題の追及には慎重を期さなければならないが、この事には深く思いを致さなければならないと思っている。

朝日新聞の中で一握りの記者たちが、あれ程までも執拗に「国家賠償」を主張したのは、本当に単純素朴な「贖罪意識」故だけだったのだろうかと考えれば、常識的にみれば「あり得ない」と考えるのが普通だろう。この論陣を張ってきた北畠記者(故人)や清田記者等は、決して「善意のオジサン」だった訳ではない。北朝鮮からの内々の意を受けた工作員だったとまでは言わないが、「歴史を変え」「大きな金を動かし(その一部が自分の懐に入る事も秘かに期待したかもしれない)」「北朝鮮や韓国で英雄となり」「自社の中でも相応の地位と権力を持つ」事を明確に目標とした確信犯で、「国民に真実を知らせる」等という甘っちょろい価値観とは無縁だったと見るのが常識的だろう。

朝日新聞自体が社を上げてどっぷりとこの陰謀に関与していたとは私は思わない。「大体において自社の理念や方向性(国民をどちらの方向に引っ張っていきたいか)と一致しているようなので、まあ、委せておいてよいだろう」という位に、軽く考えていたのだと思う。もし、そうならば、朝日新聞にも日本国民にも希望はある。

読者の大規模な離脱を防ぎ、真面目にやっている大多数の社員の生活を守る為には、朝日新聞の現経営陣は、先の社長会見でも約束したように、今度こそ本気になって徹底的に事実関係を精査し、その結果を国民大衆の前で発表すべきだ。そして、その結果「真実を伝える」という報道機関の基本理念からの逸脱が認められれば、躊躇なく関係者を処分し、自らの管理責任についてあらためて謝罪し、この事が国民にもたらした不利益が少しでも挽回出来るように、可能な限りのあらゆる努力を惜しまない事を約束すべきだ。

この事で「既に世界中に広まってしまった誤解が一気に解ける」等という夢物語はあり得ないが、少なくとも転換の糸口ぐらいは掴めるだろうと私は思う。今後の国際世論対策を考える上では、これを前提とすべきだし、その為にも、朝日追及の手は、今後とも些かなりとも緩めてはならないと思っている。吊るし上げだと言われようとどうしようと、意に介する必要はない。日本が今直面している状況は当初の想像をはるかに越える程深刻だから、可能な事は何でもやらなければならない。

私が今一番心配している事は、米国政府が遂に辛抱しきれなくなり、自民党の誰かに「既に、周囲の国際社会の誰も日本の言い分などをまともに聞くつもりはないのだから、いい加減に意地を張るのはやめて、韓国政府の要求を聞き入れ、国としてあらためて謝罪し、何がしかの賠償金を払いなさい。大した問題じゃあないじゃあないか? そうでもしてくれなければ、米国としてもこれ以上日本の防衛にコミットする事は出来なくなるかもしれないよ」と囁く事である。こうなると、安倍首相も腰砕けになり、韓国政府に脅かさた上に甘い約束で騙された先の宮澤首相(河野官房長官)と同じように、悔いを千歳に及ぼす判断ミスを冒さないとは言い切れない。

もしこんな事が起これば、日本の大衆の多くが一気にネトウヨ化し、反中、嫌韓に反米までが加えられ、「これは第二の三国干渉だ」と息巻く連中迄出て来るかもしれない。そうなれば、日本はまた、何時か辿った道を歩み始めてしまうかもしれないとさえ思う。そういう心配をしながらも、かくいう私とて、「嘘をばら撒いて公然と日本民族の名誉を傷つけた人たち」が秘かにほくそ笑むような事の為に、自分が払った税金が一銭でも使われる事は絶対に許容出来ないのだから、困った事だ。

そうなると、国際世論工作は、矢張り最初から直接米国をターゲットにする必要があるのかもしれない。私は先ずは国連からと考え、クマラスワミ報告の修正を突破口にすべきだと思っていたが、この考えは変える必要があるかもしれない(Twitterでそういう意見をきき、私も成る程と思った)。

私の考えでは、米国の関係者に直接語りかけるべき事は次のような事だと思う。語りかける人は、取り敢えずは一般の有識者であり、政府を代表する形は当面とるべきではない。国家主義的な傾向のある人は決して起用してはならない。きっかけは矢張り「朝日新聞の誤報事件の本質を説明する」形をとるのが良い。もちろん、米国内で対日非難の先頭に立っているような人は後回しにして、日本の立場が分かってくれそうな人たちから説得する。つまり外堀から埋めていくという事だ。

  1. 日本では戦後一貫して左翼的な思想を持った人たちが「進歩的文化人」として強い影響力を持ってきていた。社会主義国の実態が明らかになるにつれて、このような思想は退潮してきたが、なお多くの人たちがこの枠内に残っている。この人たちは、基本的に反米、反資本主義であるが、「国家主義的な日本の復活を警戒するあまりに、過去の日本を殊更に(事実に反してまで)悪く言う傾向がある。
  2. こういう人たちは、その思想の伝播になお執念を持っており、国内外で継続的に活動している。北朝鮮や韓国内の左派と緊密な連携をとる事も屢々ある。日本の第一級の新聞社である朝日新聞の中でも、こういう人たちが一定の力を持っており、慰安婦問題については、こういう人たちがかなり意図的に捏造された記事を書き続けてきた。今回、真実が広く国民一般に知られるようになるにつれ、朝日新聞は体質の抜本的な変換を余儀なくされつつあるが、国際的に著しく名誉を傷つけられた国民は激高している。
  3. 日本人は伝統的に国際世論をリードするのが苦手である為、何者かの画策によって国際世論が正義にもとる程にまで反日的になっても、何も出来ないままに被害者意識だけが強くなって、内に閉じこもる傾向がある。今回の慰安婦問題でも、「旧日本軍の蛮行」が実際の数十倍、数百倍まで誇張されて国際的に伝搬しても、過去の日本政府が「近隣諸国との対立回避」を優先させて正義を犠牲にした妥協を行って来た為、国民の不満は鬱積している。
  4. かかる情勢下で、もし海外における虚偽の拡散活動がなおもやまず、正義が行われないままに、日本政府が韓国政府に妥協して「国家賠償に応じる」等の方策をとれば、激高した国民(納税者)はもはや自民党政府を支持せず、より右翼的な政権を求める事になりかねない。
  5. 大半の日本人が求めているのは唯一つ。「国際社会との真実の共有」による「正義の実現」である。「虚構の創作」や、「何等かの目的の為にこの虚構を伝播している悪意に満ちた行動」は直ちに止めるべきであり、この為に必要な措置がとられる事が望まれる。女性の人権を守る為の行動には日本人も積極的に参画したがっているが、そのような行動は前向きなものでなければならず、不純な目的を持った偏ったものであってはならない。

そんな事を考えている時に、私は北村隆司さんの9月10日付けのアゴラの記事を読み、そこに添付されたビデオを見て唖然とした。しばらくすると、暗然たる気持ちがこみ上げてきた。ビデオに出てきたこの人は、冷笑されても仕方がないような「教科書を読み上げるようなスピーチ」しか出来ず、これが誰かに冷笑されたと思った途端に激高して、あたかも日本の旧軍人さながらに「笑ったのは誰だ?」「黙れ」「黙れ」と、事もあろうに聴衆に対して喚いたのだ。この種の話に不可欠な、「思いやり」「率直さ」「情熱」「ユーモア」の何一つも持たない「最悪のスピーカー」しかこういう場に出せなかった「人材が払底した日本の現実」を、私は心から憂うしかない。

「この問題について今更反論めいた事をしたら逆効果にしかならない」という人たちに対して、私は「それはやり方次第だ」と答えて来てはいたが、成る程、このビデオに出てくるような外務官僚が表に出たのでは、必ず逆効果になるだろう。

ある人がTwtterで「米国での世論工作を考えるにあたっては、共和党OBで適当な人を選び、コンサルタントになってもらうべき」と提言していたが、これは良いアイデアだと私も思う。どう話せば、どういう反応があるか? あらゆる側面を丁寧に検証して、決して反撥を招かず、最も効果的に理解が得られる方策を、とにかく模索すべきだ。何れにせよ「何もしない」という選択肢は最早ないと考えるしかないのだから。