特定機密法案に感じる不安 --- 後藤 身延

アゴラ

特定機密法案は法案施行に際して、7月に取り纏められた統一的な運用基準(統一基準)の素案から国民からの意見などを反映した修正案が示され、概ね了承されて来月にも閣議決定されるとのことです。この修正案をみると、反対意見の不安を和らげるような修正点があり、一定の評価があるとともに、まだ不十分な点も多いとの指摘もあります。


さて、この法案の是非や問題点、なぜ現時点での施行なのか等、すこし考えたいと思います。

現政府がこの法案を推進した理由はやはり、同盟国である米国の意向若しくは影響が見えてくるように思います。特定機密に指定されたものは、国の安全保障に影響を与える恐れがある事項として、防衛、外交、特定有害活動、テロリズムの防止の4項目です。これらをみると米国の意向や影響というよりは要請に近いものがあったのではないかと推察されます。

防衛については、同盟国としての作戦上の問題や武器技術に関して、日本の機密情報管理を理由に十分な情報提供がなされていなかったとする理由があったように思います。同時に特定有害活動(スパイ活動等)に関しても同様な指摘があり、同盟関係の強化、拡大を望むのであれば、今回のような法案成立を急ぎたい背景が浮かび上がってくると思います。

日本が米国との関係を強化、拡大させる方向性の是非は、日本の外交政策に係ることで、この法案だけで判断できるものではないと考えますが、集団的自衛権の議論の中で公明党が拘ったように、現行の法案で対応することができなかったのかどうか。若しくは現実論を優先させるつまり、米国の要請に近い意向を受け入れたと思われるような政府の政策上の判断が適当であったのかどうか。一抹の不安を感じます。

さて、ここでこの法案自体の不安点を考えます。一般的に国民の知る権利や言論の自由が陣害される恐れまたはそれら権利が十分に担保されないのではないかという不安、反対意見があります。確かにこの指摘は妥当な不安であることは確かですが、上記のような法案の背景がるとするなら、その不安がすぐに現実のなるものではないように考えます。

ただ、特定機密事項の項目をみるなら、政府やそれに類する組織が法案を悪用する可能性―例えば、テロ防止に関する事項として特定機密指定をして、政府に反対する勢力を封じ込めるようなこと、防衛に関する機密事項として政府機関等の違法行為を隠すような行為―が否定できない或いはその不安を払拭できなように感じます。

統一基準の修正案では、そのような国民の不安感に配慮し、「本法の敵世に当たっては、これを拡張して解釈して、国民の基本的人権を不当に侵害するようなことがあってはならず、国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない」としています。まさにこの通りに法案が解釈適用されるならば、何ら問題はないと思います。

さらに、政府としては法案の適切な運用のために統一運用基準を見直し、有識者会議の意見を付して国会報告、公表することや運用状況を検証・観察する機関の設置するとしています。それでも、一抹の不安感が拭えないように思います。政府が真摯にこの法案の適切な運用を目指すのであれば、なぜ、法案を悪用した者に対する罰則規定がないのでしょうか。

過去を振り返ると行政府等を監視する或いは検証する第3者機関が十分に機能していたとは思えない点があります。更に遡れば、軍国主義時代、軍事優先の政府が行った情報統制、思想統制といったものを連想されてしまいます。そこまでいくと議論が飛躍し過ぎであり、被害妄想的な発想なのかもしれませんが、国民の不安感やイメージはそのようなことではないかと思います。ですから、その不安感を少しでも緩和する意味でも、法案の中にその適正な運用をするための条項、悪用の罰則条項があってもよいと考えます。

後藤 身延
会社員