慰安婦問題は1993年に終わっているのだが、当時の経緯を知らない人が多いので、くり返しておこう。平野啓一郎氏はこう書いている。
これもうんざりする古い嘘だ。「業者使って欺して連れてきただけですから!」などと言っているのは、彼のように理解力も人権感覚もない小説家だけだ。彼の参照している永井和氏のウェブサイトにも、そんなことは書かれていない。彼は吉見氏と一緒に「広義の強制」を宣伝した仲間だが、プロの歴史家なので、平野氏のように妄想を書いてはいない。彼が主張しているのは、こういうことだ。
出征将兵の性欲処理労働に従事する女性が軍紀と衛生の維持のため必須の存在と目され、性的労働力は広義の軍要員(あるいは当時の軍の意識に即して言えば「軍需品」と言った方がよいかも知れない)となり、それを軍に供給する売春業者はいまや軍の御用商人となったのである。
これはその通りだ。秦郁彦氏も認めるように、慰安所の業者は軍とともに移動する御用商人だった。慰安所が戦地の補給計画の中に含まれたこともあり、軍が慰安所を設置して慰安婦を募集させたこともあった。
要するに、軍が民間業者を管理する間接関与はあったが、軍が命令して連行した直接関与はなかったのだ。この事実認識は永井氏も吉見氏も秦氏も外務省も一致しており、前者については1992年に日本政府が加藤談話で認めて謝罪した。
慰安所の設置、慰安婦の募集に当たる者の取締り、慰安施設の築造・増強、慰安所の経営・監督、慰安所・慰安婦の衛生管理、慰安所関係者への身分証明書等の発給等につき、政府の関与があったことが認められたということである。[…]政府としては、国籍、出身地の如何を問わず、いわゆる従軍慰安婦として筆舌に尽くし難い辛苦をなめられた全ての方々に対し、改めて衷心よりお詫びと反省の気持ちを申し上げたい。
しかし韓国政府がこれに納得せず、「強制性を認めれば政治決着する」と要求したため、河野談話で「官憲等が直接これに加担したこともあった」とのべたのが失敗だった。しかしこの根拠は、インドネシアのスマラン事件だった(当時の記者レクで外務省が明かした)ので、朝鮮半島では直接関与はなかったのだ。
したがって史実に争いはなく、日韓に「歴史問題」は存在しない。日本政府の責任については、河野談話で日韓両国が政治決着した。いったん決着した問題を蒸し返すのは韓国の国内問題だから、無視すればいい。朴槿恵政権はもう沈没寸前の泥舟であり、助け船を出す必要はない。