日韓併合は韓国を救ったのか - 『真実の朝鮮史』

池田 信夫
宮脇淳子・倉山満
ビジネス社
★☆☆☆☆



どうも私はネトウヨに味方だと思われているようで、日本の植民地支配を批判したら「植民地じゃなくて併合だ」とかいうスパムがたくさん来た。本書もネトウヨに毛の生えた程度の本だが、日韓併合に関する部分だけコメントしておこう。

内容は、エッカートアキタなどの研究でおなじみの話の受け売りだ。日韓併合は普通の条約であり、「武力制圧」ではなかった。日本の朝鮮半島への投資は大幅な赤字で、創氏改名も日本語教育も強制ではなかった。日本の支配はヨーロッパの植民地支配に比べれば(よく悪くも)ゆるやかだった。もちろん「強制連行」なんかなく、慰安婦問題も存在しない。

この事実認識は正しいが、ではなぜ韓国はこれほど反日なのだろうか。著者によれば、それは「コミンテルンの謀略」だという。ここから先は、何の論理も証拠もない。「謀略というのは最後まで証拠が出るわけないから謀略」(p.103)なんだそうである。すべてを「日帝の暴虐」で説明する韓国人や朝日新聞と同じレベルだ。

著者のいうように「日韓併合が韓国を救った」という論理が成り立つのなら、イギリスはインドを救い、フランスはアフリカを救ったことになる。日本はアメリカの51番目の州になって、救ってもらったほうがいいだろう。このように併合を賞賛する無神経な言葉が韓国人のプライドを傷つけ、事態を悪化させたのだ。

日韓併合は間抜けな植民地支配だったが、それは韓国にとって望ましい被支配だったことを意味しない。併合しなければ朝鮮はもっと貧しかっただろうが、今のように日本をうらむことはなかっただろう。それが(著者の否定する)民族自決の原則だ。

朝日が火をつけ、韓国が燃え上がり、それに対して日本のネトウヨが「ヘイトスピーチ」で応酬する負のスパイラルに、著者も手を貸している。今まで大した影響力もないので放置されていたが、朝日が沈没すると、それより悪質なこういうネトウヨ的言説がはびこるのは危険だ。