私を含めた不動産事業を営む者にとって家賃の安定回収ほど重要なことはありません。債権回収業者というビジネスがあるぐらいですから世の中、不払い未払いが日常的に発生しており、ビジネスオーナーの場合、売掛金回収、ないし、債権回収において「問題児」が発生すれば実に頭の痛いことになるのです。
商業不動産の場合、テナントのビジネスは順調か、というチェックは何気にこまめにしています。住宅でも同じことだと思います。当社で持つマリーナでも同じです。船の停泊料の支払いが滞れば船とマリーナを鎖で止めて船が出港できなくすると同時に船の抵当権を調べ、必要あらば船にLien(先取特権)をつけることもあるのです。
マンションの管理費の不払い、未払いもカナダの場合、管理組合によりLienが普通に付けられます。これがつくとマンションを売却した際、その売却代金からこのLienが差っ引かれる仕組みで最悪の際の対策にはなります。
家賃回収は日本では北米に比べて優しい気がします。家賃滞納3ヵ月で大家のオバサンが「○○さーん、そろそろたまっているのでお願いしますね。」というドラマのシーンは何度かお目にかかったことがあります。北米なら3か月払わなかったら鍵を変えられるでしょう。私は商業不動産で賃料不払いで夜逃げ当日にオーナー夫婦を捕まえてリテールの中身を全部差し押さえたことがあります。鍵は翌朝にすぐに変えてしまいます。また、中の動産、造作物を全部ギブアップする書面にも同意を取ります。それで双方何事もなかったかのごとく、一切の交信は途絶えます。
しかし、北米の厳しさにしろ、日本の優しさにしろ人間と人間の債権回収交渉はそれなり落としどころというものがあります。つまり、折衷するという事でしょう。
その債権回収も最近は機械化が進んできました。自動車の駐車違反切符。カナダでは払わずに放置すると1か月で改めて請求書が、3か月でファイナルノーティスがきます。それでも放置すると大体6か月ぐらい後に知らない会社から封筒が来ます。債権回収会社からのもので自動車違反切符を切った駐車場管理会社が不良債権を債権回収会社に安く売るわけです。例えば10000ドルの債権に対して1000ドルとか1500ドルといった水準でしょうか? 更にそれを放置すると自動車を登録している自宅なり事務所に電話がかかってきます。それも自動電話で。
この自動電話は厄介です。しつっこいのです。相手は自動でランダムの時間にかけてきますから思わず、参った、と言いたくなるところですが、ここも耐えると3か月ぐらいでほぼ止まります。つまり債権回収会社も諦めるのです。では訴訟されるリスクはないのか、といえば実質的にはないでしょう。50ドルや80ドルぐらいの債権で訴訟の手間は割に合わないのです。但し、複数の違反を名寄せされたら分かりませんが、そこまでする債権回収会社は私は知りません。
英米の記事に自動車ローンが不払いの際、エンジンが自動的にかからなくなる仕組みがあるという記事が出ています。事の真偽がよくわからないところがポイントなのですが、ローン会社はGPSで自動車の所在地を確認するとともに未払い債権がある場合、遠隔操作でエンジンがかからなくする仕組みというのですがその実態は明らかにされていません。
これも一種の自働債権回収機能で仮にそれがごく一般になってくれば顧客は食事を減らしてでもローンの返済だけは最優先にすることになるでしょう。ある意味非常に恐ろしい仕組みなのです。但し、一般化させようとすれば人権侵害だと主張する訴訟が沸き起こりそうな気がします。私はこれは非常手段で本当に悪質な場合には事前通告をもって実力行使するのは重要なことだと思っています。
私の日本法人で完成した賃貸住宅。この居宅の入口に鍵はありません。テンキー方式で自分だけの番号を打ち込んでドアロックを解除します。つまり、逆に言えば家賃不払いの場合、このドアロックテンキーを大家は変更することでこの人を締め出す仕組みとなっています。勿論、それを実行することはないでしょうけど(ちなみにベストは指紋認証システムですがもう少し安くならないと賃貸住宅には導入できません)。
昔は良かった、と嘆くその一言の中にはライフがシンプルだった、という事があるかもしれません。家賃もちょっとぐらい待ってくれるよ、という気楽さがありました。これが午後11時59分59秒をもって一秒でも遅れれば「遅刻」と「ペナルティ」が科せられる厳しい世の中になったという事です。ちなみに債権回収でもっともシビアなのは税の取立てでしょう。カナダの国税もそうですが、固定資産税は1秒でも遅れると確か10%のペナルティがつきます。全額に対して一律の10%ですからふざけるんじゃないと思わず叫びたくなります(ちなみに私は過去2度ほど意図せずに遅れてしまったことがあります)。
機械にいくら文句を言っても何の返事もない虚しさを感じるようになるのでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月8日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。