株式市場は何を懸念しているのか? --- 岡本 裕明

アゴラ

ニューヨーク株式市場。この3日間の荒れた動きは投資家心理が揺れ動いていることをはっきり示しています。景気回復は順調なのか、金融緩和の終焉は妥当な判断なのか、世界の不和はどうなるのか等いろいろなことが頭をよぎり始めていると言った方がよいでしょうか?

火曜日に270ドル強下げ、水曜日にほぼ同額戻し、木曜日に335ドルの下げというボラタリティの高さは明らかに注意が必要な状態にあると言えます。


1929年のアメリカのウォール街大暴落が起きた時もその兆候はその前からジワリと出ており、強気筋と弱気筋のぶつかり合いの中で何度かの激しい乱高下を繰り返しながら起きたものです。つまり、「ブラック○○」という一日の動きが兎角注目されがちですが、その動きは当然ながら予兆をはらんでいたという事です。

アメリカの投資家が悩んでいるのは金融緩和のプラグからコンセントを引き抜くことにやや疑心暗鬼になっているとも言えます。ニュースのトーンは「成長への不信」でこの場合の成長とは世界レベルの話であります。

特に資源価格の下落が顕著になっており例えばNYの原油価格は遂に85ドルを割り込みほぼ2年ぶりの水準まで落ち込んできています。一般に資源価格は景気のバロメーターとされており、中国の不動産ブームで景気が高騰していたころは世界の資源不足とまで言われておりました。それが今やどこも在庫の山の苦しい状態で価格は下落サイクルの真っただ中にいると言えましょう。

悪役はヨーロッパだと思いますが、中国もその一役を担っています。先日公開されたのFOMCの議事録でもアメリカがよくても他国が悪ければ意味がないという趣旨の議論がなされています。つまり、四輪駆動の車で一つのタイヤだけが勢いよく回っても他のタイヤが回らなければ前に進むこともできなければまっすぐに走ることもできないというわけです。おまけにロシアはロシア人のイタリアにおける資産が接収されたことに反発、報復として、外国資産を接収する法案を検討中とされています。「接収」ということが資本主義の世界で当たり前のようにまかり通るようになればとんでもないことであります。

私はアメリカの金融政策において二つの疑念を持っています。

一つは金融の緩和から引き締めへの移行は容易くないのではないか?
二つ目はFOMCは自国経済をベースとした金融政策を重視過ぎたのではないか?

一つ目の量的緩和から引き締めへの移行は当初から困難を伴うとされていました。何しろ誰もやったことがないプロセスであり、「流動性のわな」を含めたチャレンジがそこに存在します。それ以上に緩い状態から引き締める状態に「厳しくする」ことは人間に「つらい思い」をさせることであります。例えば日銀が異次元の金融緩和をしていますが、それをもとに戻す方策については十分に理解されているとは言えません。つまり、広げた風呂敷をきちんとたたんでしまえるのか、であります。

二つ目は米ドルが世界の基軸通貨であるという前提に立てばFOMCの本来の金融政策は5割の国内政策と5割のドル機能というバランス感覚が必要でありました。ところが例えばバーナンキ前議長がアメリカの景気情勢から量的緩和からの脱却の可能性を口にした2012年には新興国からの資金流出が起き、慌てて火消に走るという状態を作り上げました。

つまり、市場が期待するほど物事が順調に運ぶとは思えないし、私は以前から時間がかかるだろうというポジションを崩していません。

基軸通貨とグローバル化はもはや、地球儀ベースの経済を俯瞰せずには方向を決めることすらできず、「落ちこぼれ」を放置し、苦境に追い込むこともできず、まさに共存共栄という選択肢を取らざるを得ないとも言えそうです。

投資家の心理とはまさに世界は何処へ、という事だろうと思います。
アメリカの株式が1929年のようになるとは微塵も思っておりませんが、先が読みにくい時代に市場関係者の苦悩は続くという事でしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年10月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。