学生の学力は「低下しているように見えるだけ」である

尾藤 克之

前回、「学力低下はウソである」を投稿したところ、様々なご意見をいただきました。論点は、PISAの試験方法に問題があるという点。PISAの結果をもって、学力が低下しているとは言えないという点です。断定しすぎたため違和感を感じた方もいたようですが検証が不充分という考えには変わりません。

各国の試験方法が異なり、受験者の選定基準にもバラツキがあるということは、試験結果に問題があることを意味します。データとして見るべき価値が有ることは充分に認めますが、この結果で学力低下と決めつけることはできません。

少子化なのに大学数と学生数は増えている事実

1990年当時、18歳人口は約200万人いました。その中で大学に進学するのは35%(約70万人)。いまの18歳人口は120万人ですから、1990年と比較して約6割に減少しています。進学率は、58.7%(約70万人強)に増加しており、少子化にも関わらず、大学数、学生数は増加しています。

年度別大学数比較

遷移

難関A大学があったと仮定します。1990年は、10名の定員に対して30名の応募がありました。2011年は、少子化にも関わらず定員は変わらず10名。応募は14名でした。これがいまの大学入試の実状を簡単に照射したものです。

PISAの結果からも明らかですが、偏差値上位層に関しては1990年と2011年を比較してもレベルの差異は見られません。仮にA大学の上位合格者の偏差値を、1990年も2011年も変わらないと仮定した場合、10名の定員を充足させるためには1990年当時は合格できなかった偏差値の学生を受け入れる必要性が出てきます。これを一つの作業仮説とし1990年と2011年を比較するために偏差値のヒストグラムを作成します。18歳人口は約60%に減少しています。これを比較してみます(注1)

分析上の結果ですがおおむね以下のことが分かります。偏差値については、1990年と2011年を比較すると、偏差値が低くなるほど1990年と比較してギャップが大きくなります。現在の偏差値で65を切ったくらいから開きが大きくなり2011年の偏差値50は、1990年の38~42くらいに相当することが分かります。2011年に偏差値50の高校生が1990年に大学受験をする場合は、現在よりも10程度低いランクでないと合格できないということです(注2)

学力低下の議論の行方は

学歴低下の問題は色々と議論されていますが、未だに決着していません。文部科学省の研究機関である国立教育政策研究所は「学力は改善している。学力低下は認められない」とし、一方で、PISAの調査結果そのものに懐疑的な立場の人も大勢います。社会教育学者の苅谷剛彦氏(オックスフォード大教授)は「小中学生の学力は明らかに低下している」としています。

私はPISAの結果について懐疑的な立場をとっています。懐疑的な試験をもとに導き出された結果ですから少なくとも肯定はできません。多くの方が感じているであろう大学生の学力が全体的に低下していると感じること。これに異をとなえるつもりはありません。ですが、学力低下の議論についても検証が不充分だと考えています。未だに議論をしている最中ですから検証ができたとはいえません。よって断定はしませんが次のような表現になります。

学生の学力は「低下しているように見えるだけ」である

今後の本研究のさらなる深化と成果に期待したいと思います。また学力低下に関する書籍として次のものを紹介しておきます。研究結果は異なりますが独自見解は同分野に関心のある方にとっては参考になると思います。
学力と階層 教育の綻びをどう修正するか [単行本]
学力低下は錯覚である [単行本(ソフトカバー)]

(注1)グラフや分析データ等は拙著「就活と採用のパラドックス」(2012年6月発刊)のものを引用している。
(注2)神永正博氏(東北学院大准教授)は2007年の偏差値50は1992年の偏差値42に相当する。2007年の偏差値45は1992年では測定できないとしている。

尾藤克之
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