エネルギー投資の機会と危険

森本 紀行

化石エネルギーを使い続けることの地球環境への負荷の問題は、とっくの昔から指摘されていた。しかし、原油価格が低位に留まる限り、代替エネルギー利用や省エネルギー技術の実用化は、経済的採算にのらないので、市場原理に従って、技術的には概ね完成していても、実行されないできた。


いかに理念的に正しいことでも、経済的採算にのらないことは、資本主義の原理のもとでは行われない。逆に、原油価格が急激に上昇し、代替エネルギー技術や省エネルギー技術の採算点が一気に動くと、今度は、同じ資本主義の原理が、長年の懸案である地球環境問題の解決への誘引になる。

もしも、賢人が世界を統治していたら、もっと早く計画的に化石エネルギーからの構造転換は行われていたであろう。それに対して、私たちは、凡人の民主主義と資本主義を選択しているのだ。それでも、結果的には、正しいものが実現する。この資本主義原理に対する基本的な信頼抜きには、もちろんのこと、投資など、成り立ちはしない。

資本主義原理の基本は、価格の情報伝達機能である。化石エネルギー資源価格が高いという基本情報が、膨大な投資需要を誘発する。つまり、資本は、エネルギー分野に高い利潤率を見出し、そこへ奔流のように流れる。その仕組みが、資本の原理であるわけだ。

資本の流れる先は、三つある。第一は、化石エネルギー資源への投資、第二は、化石エネルギーに替わる代替エネルギー分野への投資、第三は、エネルギーの使用量を大幅に削減する技術への投資である。ここに大きな懸念、あるいは不安がある。この三つ、論理的には、同時成立しないだろうということである。

供給を増やす投資と、需要を減らす投資とを、両立させることは、持続可能性のあることではない。論理的に、代替エネルギーと省エネルギー技術の量産化により、そして、エマージング諸国の成長にも限界がある以上、どこかで、必然的にエネルギー価格は下がる。

メキシコ湾で起きた原油流出事故であるが、深海にまでパイプを下ろして、そこから更に地底を掘るというのでは、明らかに、産油コストは著しく高いはずである。化石資源の価格が低下してくれば、多くの進行中の開発プロジェクトの採算は、著しく悪化する。当然のことながら、背後には巨額な資金調達があるのだから、金融的に置き換えると、採算の悪化は、巨額な不良債権等の発生につながりかねない。大変な問題だ。

エネルギーの構造転換は、資本主義原理そのものであり、大きな投資の機会なのだが、同時に、同時に資本主義の矛盾そのもの、即ち、利潤率の高さが資本の集中を招いて利潤率の低下をもたらすことにも転じるであろう。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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