増税に伴う物価上昇は50%、残り50%は円安の影響

小黒 一正

政府は今年(2014年)4月に消費税率を5%から8%に引き上げた。その結果、今年4-6月期の実質GDP成長率(季節調整値)が前期比で大きく落ち込んだ。

内閣府が今年8月に公表した1次速報では前期比1.7%減、9月に公表した2次速報では1.8%減であり、その主因は増税前の駆け込み需要の反動で個人消費のマイナスが過去最大となったためだ(注:反動減の評価はこちら)。

このような状況の中、内閣府の「消費動向調査」等で7月以降の消費の回復が弱いことから、消費税再増税に対する慎重論が出てきている。消費税率の引き上げが消費動向に影響を及ぼす原因の一つは、それが物価を上昇させるからである。

物価が上昇しても、名目賃金から物価上昇分を除いた実質賃金が増加すれば問題はないが、厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(2014年10月17日発表)によると、今年8月の実質賃金は前年同月比3.1%減で、昨年(2013年)7月から14カ月連続で減少中だ


では、物価はどう変化してきたのだろうか。2012年1月から2014年8月までのCPI(消費者物価指数)等をプロットすると、以下の図表のようになる。

図表でCPIは青線(左目盛)であり、増税直前(2014年3月)に「101」であった物価(CPI)は、増税直後(同年4月)に「103.1」に跳ね上がっている。この「2.1」(=103.1-101)の物価増加分は、消費増税の効果である。

消費税率を3%引き上げても、物価が2%程度しか上昇しない理由は、CPIのバスケット品目の中には約3割、家賃等の非課税品目が存在するためである。

なお、この2%の物価上昇は、CPIバスケットの課税品目は約7割であるから、消費増税で課税品目の物価が3%上昇する場合、CPIは約2%(=0.7×3%)上昇するはずという理屈とも整合的だ。

また、図表をみると、増税後も物価は緩やかに上昇しており、今年4月に「103.1」であった物価(CPI)は8月に「103.6」まで増加している。

この増加分は増税以外の要因であり、要因の候補としては、異次元緩和による円安での輸入コストの上昇や、原発停止に伴う電気料金の値上げなどがあげられるが、図表の黒線(右目盛)の為替レート(円ドル)が示すように、円安の影響が大きいと考えられる。

では、安倍政権が本格的に動き始めた2013年1月から今年8月まで物価(CPI)はいくら増加したのか。それは、2013年1月の「99.3」から今年8月の「103.6」までの「4.3」であるが、このうちの「2.1」は消費増税の影響であるが、残りの「2.2」は円安の影響であろう。

つまり、大雑把にいうならば、2013年1月以降の物価上昇の50%は消費増税、残り50%は円安の影響と評価できる

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)