永遠に変わらない「新卒採用という詭弁」

尾藤 克之

詭弁という単語を辞書で調べてみました。次のように書かれていました。
1)道理に合わないことを強引に正当化しようとする弁論。
2)論理学で、外見・形式をもっともらしく見せかけた虚偽の論法。


●変わらない新卒採用
新卒採用とは「詭弁の産物」でしょう。毎年、新しい就活生が就活をして、毎年、新しい新入社員が入社します。採用担当者も学生の年齢に近い若手をアサインすることが多いので、数年という短いスパンで異動をすることになります。よって毎年、同じパターンの新卒採用が繰り返されることになります。これこそが毎年繰り返される新卒採用の詭弁です。

学生の志向はどのように変化しているのでしょうか。以下は1970年6月10日、日経新聞の記事になります。「人気企業は安定企業に」とあります。ここでいう安定企業は大手企業のことを指しています。

私も採用の仕事に携わってから相応の年数が経ちますが、採用市場において大手企業以外に注目が集まり応募が殺到したという話しは聞いたことはありません。また、例年、採用コンサルティング会社が発表する就職人気ランキングもさほど変化がある訳ではありません。採用市場は今後も本質は変化せず、メカニズムは変わらないと推測することができます。

ここ数十年、バブル経済や崩壊があり、新卒者の青田買いが社会問題となり、インターネットが普及し新たなビジネスが誕生するなど、さまざまな社会システムの変化はありました。しかし、採用は基本的に変化に乏しい市場だということが分かるのではないかと思います。

●人物重視という詭弁
各種、メディア等の調査で各企業の採用意欲が高まっている記事がならびます。ところが、企業にとって最も関心が高いのは学歴のみです。社会人として重要な素養として「人間関係構築力」があります。ところが、数分~数十分の面接でそれらの有無を見分けることはまず不可能です。

こうした不明確な採用方法への反省から、「学力重視採用」への回帰が発生しています。面接で見分けられない人物素養よりも、大学、成績、SPI等の検査で数値化できる学力に重きを置くのはむしろ当然の流れかも知れません。企業が学力を重視する理由は主に3つ挙げられると思います。

1つ目の理由
有名大学の学生には原則的に外れが少ないことが挙げられます。入社試験をやらせても高得点は有名大学の学生のほうが多く、受験という競争において勝ち残ってきた人材であり、学生時代に相応の受験という努力を経験しながら成果として達成してきた実績があることが評価されています。

有名大学ではない学生には、このような受験の競争や努力や実績という指標があきらかに劣っています。また相応の運も持ち合わせていなければ有名大学への合格はできません。故に特に応募が殺到する大手企業においては採用の効率性を鑑みても学歴がフィルターにならざるを得ない事情が存在しています。

2つ目の理由
人間には相手との共感ポイントを探す性質があります。初対面の人と会った時に「出身はどちらですか」「趣味は何ですか」「何座生まれですか」「血液型は」といった具合に、共通項を探し、共通項を通じて親しくなっていく経験は誰にでもあるでしょう。

企業におけるこの共通項の一つが学閥になります。特に大手企業には学閥が存在することが多く、学閥=採用実績校となるため、採用実績校ではない学生は事前にふるいにかけられてしまうことが多くなります。

3つ目の理由
「採用が上手くいった」「採用が成功した」という本質的な理由は「有名大学の学生が何名採用できたか」を表すことが多くなります。例えば、採用担当者が今年の採用は上手くいったと上司に報告したとします。恐らく、多くの上司は「何処の大学の学生が何名採用できたか」報告を求めてくることになります。仮に人物的にも素晴らしく能力値の高い学生だったとしても、有名大学でなかったり、採用実績校ではない学生では上司は評価することが難しくなります。

また実際に配属になってから何か問題を起こしたり早期離職してしまった場合などでも、有名大学でなかったり、採用実績校ではない場合は、「採用担当者は何をやっているのか。あんな奴を配属したからこういうことになった」「人事部が能力の低い奴を採用したからこういうことになった」と批判されてもい言い訳しにくくなります。

しかし有名大学出身者なら問題の所在を曖昧にしリスクヘッジが可能になります。つまり、有名大学であることがリスクヘッジの重要なポイントになっていることが少なくありません。

●独自の「戦略と戦術」を描いて内定獲得を
以上がおもたる理由ですが、企業は学力重視採用であることを決して明らかにはしません。オブラートに包みいかに厳選採用を実施しているかを訴求しようとします。最近では、エントリーシートと適性検査がカモフラージュになっていることが多くなっています。理由としては、エントリーシートや適性検査の結果を総合的に判断して落としたと見せるためです。

適性検査は外部のリソースであるため、外部の客観的な視点により結果が悪くて通らなかったと学生に思わせることができます。また、初期段階に採用効率を高めるために足切りの道具として活用されているケースも多々あります。

大学さえ入学すれば逃げ切れたのは過去の就活です。最近の就活は小手先では内定が取り難くなっています。有名大学であれば有利であることは事実ですが、学生にも内定を獲得するための「戦略と戦術」が求められているように思います。

尾藤克之
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