先ず、産経新聞電子版の以下の記事を読んでいただきたい。
韓国紙・東亜日報は7日、日本政府の拉致問題対策本部が今年9月に韓国の「拉北者家族会」の崔成竜代表と共同で脱北者に対する調査を行った際の報告書を入手したと報じた。
報道によると、証言者は北朝鮮で拉致被害者の横田めぐみさん(50)=拉致当時(13)が入院していた国家安全保衛部の病院に勤務していたとし、横田さんの朝鮮名「リュミョンスク女」と書かれた診療記録を見た際、「1964年10月5日生まれ。77年に日本で北朝鮮につかまって連れてこられた」と記載されていたと話したという。また横田さんは「94年4月10日に死亡した」と主張。死因は睡眠剤などの過剰な投与だった──としている。
めぐみさんの死亡説は拉致被害者の帰国交渉が始まった当初から流れていたから、決して新しい情報ではない。韓国紙の報道に対し、菅義偉官房長官は7日の記者会見で「信憑性はまったくない。政府は拉致被害者の全員生存を前提に懸命に取り組んでいる」と強調したという。
東亜日報の「めぐみさん死亡」報道と日本政府側の「否定」主張を読んで、日本人拉致問題について、当然のことだが、日本と韓国両国間で見解の相違というより、「国益の違い」があると痛感した。
安倍晋三政権は拉致被害者の帰国問題を政権の重要課題に挙げてその解決に乗り出してきた。安倍首相も機会ある度に、「拉致被害者の全員帰国を至上課題としている」と主張してきた。
そして、横田めぐみさんは拉致被害者のシンボル的存在だ。そのシンボルが交渉段階で死亡説が流れれば、拉致問題に関する国内の関心が低下することが予想される。だから、安倍政権としては、「めぐみさんは生存している」という立場を崩さず、北側と交渉を続けてきたわけだ。
一方、日本人拉致被害者問題について、韓国側は少し事情が複雑だ。日本側が北朝鮮側とスウェーデンなど外国の地で拉致被害者の帰国交渉を進めると、韓国側は決まって、「人道的観点から日本政府の外交を理解している」と日本を直接批判することを避けてきたが、同時に、「北朝鮮の核問題で米韓日は結束しなければならない時だ」と主張し、日本側に「拉致被害者交渉で北側に妥協することがないように」と釘を指すのを忘れない。
韓国の立場を簡単に説明するとすれば、日本が拉致被害者交渉で北と合意し、日朝の国交正常化、戦時中の賠償問題等が議題となることを恐れているからだ。すなわち、日朝交渉が前進すれば、韓国の対北カードの威力は半減する恐れが出てくる。平壌がソウルを交渉相手としなくなる危険性も考えられるからだ。
韓国側は、日本人拉致問題が大きく前進しないことを密かに願っている。だから、韓国メディアに「めぐみさんの死亡説」を流すことで、安倍政権の勢いを削ごうと腐心する。韓国の情報工作は慰安婦問題だけではない。韓国側を「非人道的な政策」と批判するつもりはない。日本人拉致問題に対する日韓両国の国益が違うだけだ。その意味で、外交世界では通常みられることだ。
付け加えると、日本人拉致被害者が帰国すれば、韓国国内で「北側に拉致された韓国国民の帰国に対して、我が国は日本政府のような熱意がない」といった批判が韓国国内で湧き上がる危険性もあるからだ。
13歳の時、北側工作員に拉致されためぐみさんは2倍可哀想だ。北に人生を台無しにされた一方、日韓両国の外交戦に利用されているからだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年11月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。