「アベノミクス」の評価をどう問うか --- 岡本 裕明

アゴラ

いよいよ選挙となります。今回の選挙の最大の特徴は争点が何か、ということであります。以前、私はこの選挙の投票には行かない、と書きました。なぜかもう一度説明します。

この選挙はアベノミクスを問うというお題目になっています。多分、それは大筋、間違いないでしょう。ところが選挙によって

1. アベノミクスを肯定するなら自民党
2. アベノミクスを否定するなら野党

とはならないところに投票しにくい理由があります。なぜならアベノミクスはまだ肯定も否定もできる状態にないからであります。それとアベノミクスを否定といっても消費税は1年半延期をお題目に掲げてしまっている以上、それに反対するということは消費税の引き上げそのものが反対ということも言えなくないので自公民が与党という考え方もできます。


投票しないのは大人ではない、と指摘されると思いますが、AかBかという選択肢の争点ではないし、今、それを問い直す意味もないというのが私のもともとの考えです。

ではお前はアベノミクスをどう捉えているのか、と聞かれそうですので素直に意見を述べます。

安倍首相の姿勢は正しいと思います。変革を通じて新たなる切り口を作り出す発想は賛成です。

アベノミクスの矢についてもベクトルは賛成ですが、為替の安定化ならともかく、こんな円安にする意味はないし株式は誰が儲けたのか、考えるとなにか違う気がします。

まず、日銀との連携はよくわかりません。デフレ脱却を金融面から押し出すため、日銀に汗をかいてもらったことは事実で日銀の独立性云々はあえてここでは議論しないこととします。だだ、量的緩和により国債市場を実質日銀の支配下に置き、国債価格を高め(金利は低め)とし、アメリカとの政策の差をレバレッジとして一気に円安にもっていく為替の操作としては黒田日銀総裁の思惑通りでありました。が、現状の輸出が伸びず、燃料を中心とした輸入が増え、国内物価がコストプッシュ型のインフレを招きつつあることはやや想定外だったのではないでしょうか?

次に株価が安倍政権になって倍以上になりました。企業の決算もおおむね好調で株が買われる素地もあったと思います。首相としては一番胸を張れるところでしょう。しかし、この株高、誰が儲けたのか、という議論をすれば別の着地点もありそうです。アベノミクスで買いに入ったのは外国の機関投資家であります。個人は基本的に売っています。とすれば株高の恩恵はいうほど受けていないとも言えそうです。

個人投資家動向は2013年に8.7兆円売り越しています。14年は10月までで1.4兆円売り越しです。しかも株価が新値をつけている11月前半(14日まで)だけで実に1.6兆円売り越し、投信に至っては1991年3月を既に抜き、史上最大の「流出」になっています。個人が投資から逃げ、外国人投資家が美味しいところを持っている構図は否定しようがありません。NISAの盛り上がりはどうなったのでしょう?

では企業。新たなる投資計画を保留、ないし中止とせざるを得ない会社が続出しました。アベノミクス第二の矢の公共投資で資金が回るという発想をサポートするためには土地や建築費が高くなっても企業は設備投資などを断行し、それを販売価格に転嫁する必要がありますが、そこのラインが切れているのです。多くの内需系企業が値上げできないサイクルから全く抜け出せないのはそこに踏み込むだけのマインドの変化が国民の間に浸透していないということでしょう。むしろせっかく賃金は2%上がっても円安でグローサリーは大幅値上げとなって効果を相殺しているとも言えます。

更に言わせてもらうと建設会社の一部(準大手以下グループ)は受注が下がっています。来期以降の見通しが立たないと嘆く会社もあります。つまり建設業界の中でも「波及効果」が出ていないのです。

日本のような成熟経済は、言い換えればコンサバティブになっているという事です。無理して新しいものを求めず、本当に欲しいものだけを求めるスタイルです。例えば4Kテレビ。私も買おうか悩み続けて今でも判断できません。先日、別件でT社のテレビの修理の人が来た際に「4Kテレビって実際、どうなんです?」と聞いたところ、「画質が4Kでなくてはいけないことはないでしょう。放送もいつ始まるか分からない。」「8Kも技術的には完成していると聞いていますが?」「コストがかかりますしねぇ。それに女優は嫌がるんですよ、見えすぎちゃって」。コモディティ化した商品には飛びつかないという話ですが、多分、このストーリーラインはある程度ご賛同いただけるのではないかと思います。

アベノミクスの「改革する精神」を貫くなら、経済の断面について時代の変化を見据えるべきではないでしょうか? つまり、昔の論理は必ずしも通用しないという事です。アベノミクスの一つの目的が財政再建であれば、最大の切り口は増大する社会保障費の対策のほうが効果は高いはずです。

健康な人の保険料は安くするというアイディアは素晴らしいと思います。日本人はこういうものには異様に反応しやすく、病院に行かないなら保険料が安いとなると本当に行かなくなります。これだけで数割の医療費削減効果が出て来てもおかしくないでしょう。医療費についてはウェブなどを通じてもっと目に「見える化」にして自動車保険と同じように無事故なら割引率を高くする(但し病気がちの人でもフルレート以上は取れません)のは当然で民間なら何十年も前から導入していたでしょう。

日本には役人の数は世界の水準からすると人口比ではかなり少ない方だとされていますが、いわゆる市町村の役所の作業の非効率さは大きな疑問符が3つぐらいつきます。窓口関係の業務はコンピューター化で相当人も減らせるし、待ち時間も減らせるのに今でも昭和30年代の人海戦術のような作業をしています。しかも市町村の各部署で情報が連動していません。つまり、部署Aで作業が終わると部署Bで全く同じ基本作業を行ったうえで部署Bのプロセスを行うという信じられないほどの非効率性が存在します。

アベノミクスを問うと言ってもこれでは試験勉強半ばで700億円かけて試験(=選挙)して合格すればもっと勉強するというようなものです。解散まで追い込まれる理由はないはずですが、安倍首相は「国民とのお約束(=消費税増税)のシナリオを変更するから解散するのは当然だ」としたあの会見は首相が弱気になってしまっている悪い安倍丸そのものです。

選挙後に期待してもう一度自信をつけてまい進していただくしかない、というのが私の考えであります。700億円の元気が出るドリンク、「リゲイン」ですね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年11月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。