韓国人はドイツ人を全く知らない --- 長谷川 良

アゴラ

韓国では日本の「正しい歴史認識」不足を指摘する声が強い。その一方、日本と同じ第2次世界大戦の敗北国ドイツの戦後の償い方を称え、日本に対して「ドイツを見習え」といってきた。最近では、ナチス・ドイツのホロコーストなど過去の歴史について謝罪してきたドイツのアンゲラ・メルケル首相が第12回ソウル平和賞に選出されている、といった具合だ。

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▲韓国の少女グループPritzのナチスのユニフォームを報じる(ドイツ日刊紙ヴェルト電子版11月24日)


相手の「過去の歴史」への対処を称える以上、韓国はドイツの歴史、特に第2次大戦時とその戦後について学んできたことが前提となる。知らないのに相手を称賛できない、と通常は考えるからだ。特に、日本の過去の歴史対応と比較する以上、なおさらそうあるべきだ。ドイツのどこが優れ、どの点が日本の歴史清算には不足しているのか、といった一連の具体的な歴史認識が求められるからだ。

ところが、実際は、韓国人のドイツの歴史に対する学習はそれほどではないことが明らかになった。韓国の少女4人組ポップグループ「Pritz」がナチスを想起させる衣装を着て舞台で歌い、ドイツで大きな議論を呼んだばかりなのだ。

韓国の中央日報日本語版によると、「Pritzは11月2日に釜山で開かれた公演で、ナチスの象徴であるハーケンクロイツを思い起こさせる腕章をはめてステージに立ち議論を巻き起こした。メンバーが左腕に付けた赤い腕章には白い円が描かれ、その中にXの文字が書かれていた」と報じている。

同グループの衣装姿が国際メディアで報道されると、Pritzの所属事務所は「少女たちの衣服はナチスの紋章を彷彿させるというより、一種の交通信号のようなイメージを与えるだろう」と述べ、「話題作りのため意識的にナチス・ドイツ軍の衣服を真似たのではない」(ドイツ日刊紙ヴェルト)と弁明している。

中央日報はナチス議論に対する非難よりもグループを擁護するコメントを紹介し、「Pritz公式ユーチューブチャンネルのコメントを見ても、むしろ『70年過ぎたことだ。しかもナチスの紋章でもない』『韓国でなんのネオナチか』『めげずにがんばれ』などの反応も多かった」と報じている。

終戦から70年が経過する今日、ナチス・ドイツ軍の衣服に似ている云々の議論は意味がない、という論理は理解できる。しかし、日本の歴史認識問題ではあれほど詳細な点に拘り、批判し続ける韓国人、韓国メディアが日頃から称賛してきたドイツ国民の歴史への感情、繊細さに対して理解が不足していることに少々驚かざるを得ない。

そういえば、韓国の金泳三大統領(在位1993~98年)が海外訪問で飛行機のタラップから降り、歓迎する人々に手を挙げて挨拶する時、その手を挙げる姿がナチス式敬礼ハイル・ヒトラー(独語 Heil Hitler、ヒトラー万歳)を彷彿させるということで話題になった、そこで大統領側近が「タラップから手を振る際には決して腕を真っ直ぐに伸ばさず、手を左右に軽く振ってほしい」と助言したと聞く。韓国大統領となった人物が側近から助言を受けなければ、ドイツ人の歴史的感情、痛みに気が付かなかったのだ。

「ナチス制服姿の少女バンド」というタイトルの記事(11月24日)を書いた日刊紙ヴェルト紙のSoeren Kittel記者は、「ドイツと韓国間には8000キロの距離がある。ナチスの紋章に対する受け取り方はドイツ人と韓国人では違うのかもしれない」と、少女グループのナチス紋章に対して寛容な姿勢だが、「Pritzというグループ名は独語のBlitzを思い出すばかりか、Pretty Rangers in Terrible Zone(独語 Huebsches Ueberfallkommando in schlimmer Gegend)を想起させる呼称だ」と指摘することを忘れていない。すなわち、ドイツ人の耳には、4人組のポップグループ名はナチス・ドイツ軍を彷彿させるとはっきりと述べているのだ。

日本に「正しい歴史認識」を求め、ドイツの歴史認識を無条件で称賛してきた韓国国民、メディアは、ドイツの歴史を少しは学ぶべきだろう。相手の歴史を学んでこそ、批判し、称賛もできるからだ。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年12月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。