教育・研究目的の著作物利用に合法判決が相次ぐ米国(その1)

城所 岩生

米国で教育・研究目的の著作物利用に対する合法(フェアユース)判決が相次いでいる。小保方晴子氏のSTAP論文コピペ問題で、日本でもコピペ論文検出サービスが脚光を浴びているが、米国では、いち早くこのサービスを開発した事業者に対して、論文を無断利用された学生が訴えた。しかし、裁判所は2009年にフェアユースを認める判決を下した。


フェアユースとは
著作権法は著作物の利用と保護のバランスを図ることを目的とした法律である。著作物の利用には著作権者の許諾を要求して保護する一方、許諾がなくても利用できる権利制限規定を設けて利用に配意している。わが国の著作権法はこの権利制限規定を「私的使用」「引用」など個別具体的に列挙しているが、米国は利用する目的がフェア(公正)であれば、許諾なしの利用を認める権利制限の一般規定として、「フェアユース」規定を置いている。

コピペ論文検索サービスに対する訴訟
iParadigms社は高校・大学の教師が盗作論文を発見するのに役立つTurnitin盗作検出サービス(以下、”Turnitin” )を開発した。高校・大学がTurnitinに加入すると、学生は論文をTurnitinのウェブサイトに直接あるいはTurnitinのシステムに組み込まれたコース管理ソフトに提出しなければならない。

学生が論文を提出すると、Turnitinはこれまで学生がTurnitinに提出した論文や定期刊行物の商用データベースなど、インターネット上で入手できるコンテンツと照合し、提出された論文ごとにオリジナルではない度合い(盗作度合い)を判定した。

Turnitinは、高校・大学に対して学生の論文をアーカイブするオプションを提供していた。このオプションを選択すれとTurnitinは学生の提出した論文を保存して、以後学生の提出する論文のオリジナル性を判定する際のデータベースとしていた。

原告は4人の高校生で、2人がバージニア州、2人がアリゾナ州のいずれも同じ高校に通っていた。両校ともTurnitinサービスに加入し、アーカイブのオプションも選択していた。論文の単位を得るためには、Turnitinのウェブサイトに論文を提出することを学生に義務づけ、それに従わない場合には論文を評価しなかった。 

4人のうち3人の高校生がTurnitinに学校から提供されたパスワードを用いて論文を提出したが、論文をアーカイブされることには反対の意思表示をしていた。ところが、両校ともアーカイブのオプションを選択していたため、Turnitinは提出論文をアーカイブした。原告はTurnitinが自分たちの許諾なしに論文をアーカイブしたと主張して、iParadigms社を訴えた。iParadigms社はフェアユースに該当すると主張した。

フェアユースについて定めた著作権法第107条は、フェアユースを判定する際に考慮すべき要素を四つあげている。最初の要素は、「利用の目的および性質(利用が商業性を有するかまたは非営利的教育目的を含む)」と規定している。

裁判所は当初、カッコ書きにある商用目的か非営利目的かを重視していたが、最高裁はパロディーの著作権侵害が争われた1994年のキャンベル判決で解釈を変更。作品の変容性を重視するようになった。単に原作品に置き換わるだけの作品なのか、別の目的を加える変容的(transfomative)な作品なのかを考慮し、変容的であればあるほど商用目的など他の要素の重要性は低くなるとした。

2009年、第4控裁はiParadigms社による学生の論文の利用は、表現内容とは全く関係ない、盗作を検出して防止する目的なので、変容的であるとし、第1要素はフェアユースに有利と判定した。

第2要素は、利用される著作物の性格である。原作品が創造的であればあるほど侵害が認められやすい。第4控裁は、学生の論文に創作性があることは確かだが、他の学生の論文との類似性を比較するためのデータベースとして利用している、言い換えれば、創作的な側面を利用しているわけではないので、この要素はフェアユースに有利とも不利ともいえない(中立)とした。

第3要素は、利用された部分の量と質である。大部分を利用したり、あるいは一部しか利用しなくても作品のエッセンスを利用すれば、フェアユースは認められない。第4控裁は、論文の表現部分を利用しているのではなく、表現部分とは全く関係ない単なる比較のために利用されているので、たとえ全文を複製したとしても、中立であるとした。

最後の第4要素は「利用が原作品の市場に与える影響」、言い換えると原作品の市場を奪うか否かである。第4控裁は、原告全員が証拠開示での証言で、彼らの論文を他の学生に販売する計画がないと証言したことから、Turnitinが学生たちの論文の市場を奪ったり、論文の価値を害したりすることがないとしてフェアユースに有利とした。

以上、4つの要素中、第1要素と第4要素がフェアユースに有利(非侵害)。第2要素と第3要素は中立なので、総合判定でiParadigms社のフェアユースが認められた。

教育用DVDストリーミング配信サービスに対する訴訟
大学が教育用DVDを複製してストリーミング配信したケース。カリフォルニア大学ロスアンジェル校は、教育用ビデオを制作した会社からライセンスを受けたシェイクスピアの戯曲などをストリーミング配信し、同校のネットワークにアクセスできる者であれば、どこからどこでも視聴できるようにした。

ビデオ制作会社などが同校を訴えたが、カリフォルニア中部連邦地裁は2011年に、DVDを同校のネットワークにアップするのは、同校にライセンスされた権利の一部なので、複製はフェアユースにあたるとした。

原告から再審請求を受けた同地裁は、2012年にも再度フェアユース判決を下した。第1要素(利用の目的および性質)についてはフェアユースに有利とした。第2要素(原作品の性質)については、シェイクスピアの戯曲に創作性があることは確かだが、教育目的の利用なので、フェアユースに有利とも不利ともいえない(中立)とした。

第3要素(利用された部分の量と質)については作品全体を複製するため、フェアユースに不利だが、若干不利にすぎないとした。第4要素(利用が原作品の市場に与える影響)については、自分のパソコンでDVDを視聴するよりも教室で視聴する方が、学生がDVDを購入するようになるとは考えられないためフェアユースに有利と判定した。

以上、フェアユースに有利な要素が二つ、中立が一つ、若干不利が一つなので、総合判定でフェアユースが認められた。

城所岩生(米国弁護士)