内部留保って何?

池田 信夫

「アベノミクス解散」と銘打った総選挙で自民党が勝ちましたが、景気は悪くなっています。こういう状況を気にして、安倍政権は企業に「賃上げしろ」と求めています。特に麻生財務相は、きょうの記者会見で「企業に内部留保がたまっているので賃金に回すべきだ」といったそうですが、彼は内部留保って何か知ってるんでしょうか?

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内部留保ということばは、企業会計にはありません。これは利益剰余金のことで、企業の純資産から資本金と資本準備金を引いた「利益のたくわえ」です。これが増えていることは事実で、図のように2012年には304兆円にのぼっています。

これを「企業貯蓄」と勘違いする人が多いのですが、そのほとんどは設備投資に使われており、たとえばトヨタでは12兆円あまりの利益剰余金のうち現金は2兆円程度です。これは売り上げから賃金などの経費を引いたものですから、内部留保から賃金を出すのは、賃金を2度出すことになります。

しかし日本の企業の預金が多いことは事実です。これは必ずしも利益剰余金とは対応しませんが、現金・預金は約168兆円で、日本の企業は全体として貯蓄超過(貯蓄が借り入れより多い)になっています。企業はお金を借りて投資するものですから、それが貯蓄していることが日本の景気がよくならない大きな原因です。

大和総研の調べでは、預金のうち約101兆円は資本金1億円未満の中小企業のもので、1社あたりで計算すると数千万円です。これは経営がゆきづまって銀行がお金を貸してくれなくなってもいいように、身を守っているともいえます。

しかしこういう余裕資金は株主のものですから、本来はもうかったら配当するか、自社株を買い戻すなどして、株主に還元するのが当たり前です。そうしないで金利の低い預金にしていると株価が下がり、中には預金の残高が時価総額より大きい会社もあります。

こういう企業を買収したら、確実にもうかります。たとえば時価総額100億円の会社が120億円の預金をもっているとすると、この会社を100億円で買収して解散すれば、20億円もうかります。これは120円の入ったサイフを100円で売っているようなもので、資本市場(企業買収)がちゃんと機能していれば、こういう会社がいつまでも存続することはありえない。

ところが日本では大企業でも、預金をためこんで投資しない会社が多い。そういう会社はもうかりませんが、企業や銀行がおたがいに「持ち合い」で株を売らないので、企業買収ができません。このため利益率も低くなり、日本の会社の株主資本利益率(ROE)はアメリカやヨーロッパの半分以下です。

つまり日本の経営者は株主をバカにしているわけで、これが日本の成長率が低い大きな原因です。内部留保を活用するには、こういう企業の過剰保護をやめ、資本市場を活用して企業の新陳代謝を進めることが大事です。