安倍首相の無謀で愚劣な対ロ接近:ルーブル暴落に際して

站谷 幸一

ロシアの通貨下落が止まらず危機的な状況にある。こうした現状が続けば、プーチン政権は最大の危機を迎える可能性が高い。となれば、これは地政学的な大変動を周辺にもたらし、それは無謀で愚劣な対ロ接近を継続する安倍首相率いる日本にもマイナスの影響を与える。以下ではそれについて述べたい。


1.プーチン政権の危機
12月17日のフィナンシャルタイムズはふるっている。

ロシアは、最悪の通貨危機に苦しんでいる。危機は国内の経済、政治システム、対外関係に深刻な影響を与えている。新興国通貨の暴落の水準からみても、今週のルーブルの下落ぶりは極端だ。(略)
プーチン氏がもはや経済的な利益において国を統治しておらず、むしろ架空の地政学上の目標追求に躍起になっていると市場は考えている。

と喝破したのである。

そして、同紙は、金融政策上は、さらなる利上げか、中銀の外国為替市場への大規模な介入か、あるいは通貨統制しかないが、いずれも逆効果でしかない愚策であり、プーチン大統領がウクライナ問題で妥協して市場の信認を取り戻すか、対外膨張主義に打って出て、局面の打開を図る自殺しかないと指摘する。

こうした指摘が正しいならば、プーチン政権はいよいよ袋小路に入ったことになる。原油価格の下落はソ連崩壊の大きな一因となったし、金融危機はエリツィン政権の求心力を低下させ、プーチン政権誕生の一因となり、それからの回復は彼の飛躍の主因となったからだ。

そして忘れてはならないのは、ウクライナ危機以前のプーチン政権の支持率は低迷しており、前回の選挙では不正疑惑が国民の関心を呼んでいたということだ。

つまり、プーチン政権は、国内での求心力低下を目前にしており、もはやウクライナで妥協して米ロ協調を図るか、ウクライナでの軍事行動を加速化し西側の妥協を引き出すかしか手がないということである。

勿論、年初には5090億ドルから4160億ドルに減少したとはいえ、外貨準備はまだまだあるので、半年程度はプーチン政権が考える時間はあるだろうが、原油価格の下落、通貨危機、国内のインフレにどこまで持つかは不明だ。

実際、世論調査機関レバダ・センターのレフ・グトコフ所長は、「大統領への支持は1年半から2年ほどは持つだろうが、来年の春ごろには、不満の最初の兆候が見られ始めるかもしれない」とロイターの取材に答えている。

2.我が国に与える影響と採るべき政策
では、今後のプーチン政権に残された展開がわかったが、これが我が国にどのような影響を与えるのだろうか。まずは、ウクライナ問題で妥協した場合である。この場合、プーチンの国内権威は低下し、同時に外交的には米ロ接近しかなくなる。となれば、米ロ・米中・中露接近という、我が国と安倍政権の盟友たる北朝鮮にとっては悪夢のような展開しかない。

片や、あくまでプーチン政権が妥協を拒めばどうなるか。通貨安も原油価格低下も継続し、プーチン政権の国内支持は低下し、国内情勢は不安定化する。そして、それは「ロシアの春」というソ連ならぬロシア崩壊か、ウクライナへの義勇部隊増派と攻勢という対外冒険主義によって西側を妥協させるしかなくなる。

そうなれば、我が国はロシアと心中するか、米国の冷たい目線を浴びながらとぼとぼと米国に追随するかしかなくなり、これまた悪夢のような展開である。

そして、どちらも日ロ平和条約という展開はありえないということである。ロシアの国力が減摩すれば、北方領土交渉が進むと能天気な意見もあるが、それはプーチン政権崩壊後の新政権との話であって、現政権とではない。

何故ならば、領土獲得によって高支持率を獲得し、今や経済危機を迎えて、ナショナリズムしか頼るものがないプーチン政権に領土をよこせとはできない相談だ。実際、ゴルバチョフ政権の時はまったく交渉できず、エリツィン政権後期にようやく領土交渉が前進したのがよい証拠だ。

すでに筆者は繰り返し述べてきたが、ロシアには欧米と強調し、もっと強硬な態度をとるべきであり、彼らが困窮してから最初に仲介役となり、橋渡しをするべきだったのだ。

しかし、このような現状ではそれも出来ない。欧米からの不信を買い、対ロ問題を理由とする米国の対中接近を促進させ、ロシアからは下駄の雪と思われるだけである。

だが、このままサンクコストにしがみついて、対ロ接近を継続するのは絶対に我が国にとってはよろしくない。今からでも遅くないから、プーチン訪日はきっぱりと断り、対ロ強硬姿勢に一端は転じるべきだ。そして、ロシアが究極的に追い込まれてから、西側とロシアの関係を仲介なり、最初に日本が対ロ接近すればよいのである。

3.対ロ外交に見る、オバマ大統領より無能な安倍外交
さて、日本のとるべき進路を論じた上で指摘しなければならないのは安倍首相の無能さである。金融システムは西側が作り上げたものであり、そこに入りながら西側の市場と対立すればどうなるかはわかっていたはずである。

そもそも歴史的にはサウジアラビアと米国のタッグマッチで原油価格が上下してきており、その原油価格低下でロシアが危機になるとはわかりきってたのに対ロ接近をなぜ続けたのか。いい加減に現実を理解するべきだ。

通貨安が下げ止まらないのに、架空の地政学上の目標追求に躍起になっている指導者。本当に今のロシアの通貨危機とプーチン大統領の醜態は、近い将来の日本と安倍政権ではないのか?

そして、このようなロシアとプーチンをオバマ大統領より信用できるとか有能だとか称揚してきた人達は責任を取るべきだ。

オバマ外交は多々問題もあるが、本当に凄いのは見事に国内政治とリンクさせていることである。原油価格下落で、共和党の利権であるシェールを叩き潰しつつ、ロシアも潰す。ロシアを潰して、それによりキューバとの国交正常化につなげ、それによりキューバ系の票を獲得する。安倍首相やプーチン大統領よりはるかにマシな外交手腕というべきだ。

誤解してほしくないのは、オバマ外交を称賛しているのではなく、安倍首相やプーチン大統領が愚劣すぎると言っているのである。

今こそ、安倍首相は円安を傍観して、日ロパイプラインとか日ロ協商で対中けん制という架空の地政学上の目標を追及するのはやめるべきだ。確かに日ロ協商は安倍首相の夢見る「戦後の終わり」である。それは同意しよう。しかし、それは新しく輝かしい未来への前進ではなく、破滅による焼け野原への回帰であって、敗戦か戦前への回帰でしかないのだ。

站谷幸一(2014年12月18日)

なお、過去の筆者の安倍政権の対ロ政策批判は以下を参照のこと
日本はあくまで「西側」として行動すべき9つの理由(2014年3月31日)
危機に瀕した対ロ外交と安倍首相の無為無策(2014年3月3日)

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