GDPからGNIへ

池田 信夫

今年はアベノミクスで大騒ぎしたあげく、マイナス成長に終わりそうだ。安倍政権は「賃上げ要請」とかバカなことをやっているが、それよりプラス成長に変える方法がある。GEPRにも書いたことだが、経済規模をGDP(国内総生産)ではなくGNI(国民総所得)でみればいいのだ。


GNIは昔、使われていたGNPと同じ数字(所得側から見たもの)で、GDP+海外収益と考えてよい。たとえば電機メーカーが国内で年間50億円の利益を上げていた液晶の工場をを台湾に移し、100億円の配当を本社に払うとすると、日本のGDPは50億円下がるがGNIは50億円上がる。逆に台湾のメーカーが日本の工場で上げた利益は、GNIにはカウントされない。

つまりグローバル化が進むとGNI-GDPは大きくなる。図のように、この20年、実質GNIは一貫してGDPを上回り、その差は拡大している。2013年度の実質GDP成長率は1.8%だが、GNI成長率は2.4%である。今年度のGDP成長率はマイナスになる見込みだが、GNI成長率はプラスになると予想される。


日本のGDPとGNI(兆円)

これは短期的には、ドル高で円建ての海外収益が上がったためだが、長期的にも製造業の海外シフトが進んでおり、円安でも変化はみられない。「ものづくり」からの脱却が叫ばれて久しいが、日本のGDPの20%は製造業が生み出しており、その比率はGNIベースでみると25%、関連産業を加えると30%以上を占める。

昔は経済規模の指標として、GNP(GNIと同じ)が使われていた。そのほうが国民所得の指標としては自然なのだが、対内投資の多い国では逆にGDP>GNIになる。80年代のアメリカがそうだったので、国内の雇用の指標に近いGDPに切り替えたのだ。今はアメリカでもGDP<GNIなので、世界的にGNIに切り替えようという動きが出ている。

2013年度でみると、名目GDPが483兆円に対してGNIは501兆円と差は3.7%程度だが、どちらを目的にするかの違いは大きい。製造業のグローバル化でGNIは増えるが、GDPは減る。新興国のように雇用の創出が大事な国ではGDPを重視すべきだが、日本のように労働人口が減る国では、海外収益を増やして国内に再分配したほうがいい。

この場合、国内の雇用が減り、企業の海外収益が上がると、株主と労働者の所得格差が拡大する可能性がある。ピケティも一貫して「国民所得」で格差を比較して、この問題を指摘している。「トリクルダウン」の効果はそれほど大きくないので、これは税で再分配する必要があろう。

これはJBpressにも書いた今後の日本の経済戦略ともからむ。GNIベースで考えると、円安で国民の資産を目減りさせるアベノミクスは自国窮乏化政策である。円安に歯止めをかけ、今後は円資産を増やして海外投資を高める政策に転換すべきだ。