来年度から2年間で、法人税が3.3%下がるそうです。安倍首相は「これで賃上げしてほしい」と財界に求めていますが、そんなことは起こりません。麻生財務相のいうように「内部留保」しないで投資することも起こりません。これはよい子のみなさんにはむずかしい話ですが、政治家のみなさんにもわからないようです。
法人税というのは正確にいうと「法人所得税」です。法人(会社)の所得というのは、売り上げから賃金や設備投資などの経費を引いた利益ですから、法人税率が変わっても賃上げの原資は増えません。
これを簡単な例で考えましょう:ある会社の売り上げが100億円で経費が80億円だとすると、利益は20億円です。これに40%の法人税がかかっているとすると、この会社のはらう税金は
20億円×40%=8億円
です。この税率が3%下がると、この会社のはらう税金は20億円×3%=6000万円へって7億4000万円になります。これによって会社の(税引き後の)純利益は増えますが、経費の80億円は変わりません。会社を経営するときは、この経費を最小化(税込みの利益を最大化)します。税率は会社が変えられないので、賃金や投資には影響しないのです。
では法人税は会社の経営に何も影響しないのでしょうか? そんなことはありません。法人税は、どこの国に投資するかという立地条件には影響します。日本のメーカーが台湾に工場をつくったら利益の13%しか課税されませんが、同じ工場を日本につくったら40%取られるとすると、これから新しい工場をつくるときは台湾につくったほうが得です。
こう考えると、法人税がゼロの国にオフィスをつくるのがいちばん得です。そういう国のことをタックスヘイブン(税の避難所)といいます。法人税率がほぼゼロの国は、カリブ海などにたくさんあり、みんな小さな国です。税金を取らなくても、大企業のオフィスが島にできると、それに関連する仕事がたくさんできるのでかまわないのです。
法人税は、こういう不公平のもとになるので、やめたほうがいいという経済学者もいます。会社は利益の中から法人税を払い、残りの純利益から配当しますが、この配当にも税金がかかります。これは会社の所得に税金をかけ、その残りの配当所得にも税金をかける二重課税です。
これをのがれるために、会社はなるべく(株式ではなく)借金で資金を調達しようとします。借金の金利は経費として売り上げから差し引かれるからです。このように法人税によって会社の財務がゆがんで、借金が大きくなりすぎる傾向があります。
法人税を下げると、共産党などが「大企業優遇だ」といいますが、これはまちがいです。上でもみたように法人税は、利益の分配や立地条件に影響するので、会社が日本から出て行くと雇用が失われ、労働者が困ります。実際には、法人税を実質的にもっとも多く負担しているのは労働者です。
だからいろんなコストが高くて立地条件の不利な日本が法人税率を下げることはいいのですが、これで賃金や投資が増える効果はほとんどありません。実体経済がよくならないのに、輪転機をぐるぐる回したり税務署がさじ加減を変えたりするだけで日本経済がよみがえるのは、よい子のおとぎ話の世界だけです。