防衛予算増額の背景 --- 井本 省吾

アゴラ

2015年度の防衛予算は14年度比2%増の4兆9800億円となった。3年連続の増額で過去最大である。しかも14年度補正予算案のうち、15年度に計画していた事業を前倒し計上した約950億円を加えると、5兆円の大台を突破する。

「主権を断固として守る」という意思を前面に押し出す安倍晋三首相の意向を映して、領海警備を担う海上保安庁の予算を前年度比5割増と大幅に増やした。巡視船や新型ジェット機の整備費を拡充、特に尖閣周辺の警備では、建造中の大型巡視船6隻を15年度中に就航させ、24時間体制で監視に当たる全12隻、約600人の尖閣専従チームが完成する。


尖閣諸島など離島が占拠された場合に奪還する「水陸機動団」も新設、離島への兵力投入能力を高める垂直離着陸機オスプレイ5機、水陸両用車30両を導入する方針だ。東シナ海の警戒監視を強めるため、国産哨戒機P1を20機、最新鋭ステルス戦闘機F35も6機購入するという。

基本的に賛成だ。大手メディアの論調を見ても、「無原則的な増額は許されぬ」「大幅な軍拡は中国など周辺国を刺激して危険だ」という相変わらずの批判はあっても、その声は小さい。

中国の軍拡が日本の防衛力整備を大きく上回る勢いで続いており、東シナ海や南シナ海で日本のみならずフィリピン、ベトナム、インドネシアなど周辺国に大きな脅威を与えていることはだれの眼にも明らかだからだ。

防衛予算を批判する社説も、中国の軍拡に対処することは当然、やむをえないと認めているので、批判のトーンも小さくならざるを得ないのだ。

集団的自衛権の行使容認を唱える安倍政権が今回の総選挙で大勝したことも、大きく影響している。また、安倍政権になって以降、日本はインドやオーストラリアを含め、中国が脅威を与えているアジア諸国と多彩な防衛協力を進めており、各国は日本の動きを歓迎している。

増えたといっても、日本の防衛予算はGDPの1%弱。米国(4.0%)やロシア(3.1%)、韓国(2.6%)、英国(2.2%)に遠く及ばない。

中国は経済成長率が7%台に鈍化しているというのに、今も二ケタ増。過去10年間で約4倍に増えており、日本の防衛関係費の約2.7倍、しかも、中国が公表する国防費には外国からの兵器調達などの費用が全て含まれておらず、実際は約1.3~2倍に膨らむと言われる。

日本の軍拡が中国を刺激すると言われるが、中国は日本の防衛関係費の増減に関係なく軍拡を続けているわけで、日本がそれに対処するのは当然である。

国民の多くもそう考えているから、防衛費増額に動く安倍政権を支持している。

問題はここから先である。今後、安倍政権が集団的自衛権の行使容認から憲法改正へと動くとき、どれだけの支持が得られるだろうか。

前回の選挙で自民党よりも右派の次世代の党が大敗し、共産党が当選者を大きく増やしたことを見ると、「これ以上の軍拡路線はノー」というのが、国民の意思なのだろう。共産党の勝利はその牽制と見ることもできる。

それは周辺国との緊張の高まりを抑えようとする健全な姿勢とも言えるが、独立国として独り立ちするのを恐れ、いつまでも米国に甘えていたいというモラトリアム意識の持続とも見られる。

国民の多くは自衛隊や海保を米軍同様、一種の傭兵のように考え、自分と密接な関係にある国防軍とは考えていない、自分の問題として国防を意識していない、と見るのは穿ちすぎか。

当っているとすれば、それはやはり不健全である。私自身は憲法改正へと動くべきだと考えている。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年1月16日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。