「おかしなことはいずれ是正される」なぜ日本のOLはいなくなったのか --- 内藤 忍

アゴラ

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国内の投資用不動産を見学する機会がありました(写真)。「アベノミクス」によって東京都心の不動産価格は上昇していますが、それは一部のエリアだけの現象です。同じ東京でも周辺の住宅地は横ばい。さらに郊外に行けば、国内の他のエリアと同じように地価は大幅に下落して、不動産の買い手がつかない場所もあります。

2%のインフレを実現するためにも、国内の不動産価格を上昇させるにはどうしたら良いのでしょうか?


2つの方法があると思います。

1つは、容積率の緩和です。不当に低い容積率で土地の有効利用が阻害されている場所を規制緩和して、より高い建物が建てられるようにすることです。容積率が倍になれば、同じ土地から2倍のフロア面積が取れることになりますから、土地の価値は単純計算で2倍になります。需要の無いところでは意味がありませんが、容積率緩和によって恩恵を受ける地域は多いと思います。

2つ目は、日本の銀行が日本に居住している日本人以外にも低金利で不動産担保ローンを貸し出すことです。不思議なことに、日本のメガバンクなどは、日本人の住宅ローンには1%以下の極めて低い金利で融資をして、激しく競争しているのに、外国人の借り入れに対しては極めて消極的です。最近、台湾系の銀行に買収された東京スター銀行は、台湾人の日本の不動産購入にローンを付け始めたと言われていますが、限定的です。

円安で日本の不動産価格は相対的に割安になってきており、アジア人の熱い視線が注がれています。しかし、彼らが日本で物件を取得しても日本の銀行からは通常ローンを借りることができないのです。もし、担保価値の50%でもローン借りられれば、レバレッジ2倍ですから、需要が2倍に膨れることになるのです。

今や、東京の湾岸にあるタワーマンションの上層階の多くはアジアの人たちが購入していると聞きます。彼らの購入資金に、超低金利で集めた日本円を融資すれば、良いと思うのは素人考えでしょうか? 日本の銀行にとっては、大きなビジネスチャンスの喪失に見えるのです。

一方で、社会人になりたての20代の会社員が、自己資金100万円以下で2000万円のワンルームマンションを金利2%の35年ローンで購入できる。こちらの貸し出しリスクの方が銀行にとっては高いと思いますが、日本のビジネスパーソンの大きな特権として存在しているのです。しかし、世界的に見てこのような日本人だけの優遇が未来永劫に続くとは思えません。

1990年代に日本には「OL」と呼ばれる人たちがいました。大学を卒業して会社に入り、お客様にお茶を出したり、社員の机を掃除したり、営業職の人の出張の手配や交通費の精算をするだけで、雇用が保証され、年収600万円以上を稼いでいた人たちです。世界的に見て稀な職種でしたが、労働市場の変化と共に絶滅しました。

容積率は国の政策の問題ですが、銀行の融資は金融機関としてのビジネスの問題です。「おかしなことはいずれ是正される」という世の中の法則から言えば、外国人に日本の銀行が積極的に融資を始め、日本のビジネスパーソンの特権が無くなる。それは、そんなに先の話ではない気がします。

もしそうなれば、日本の不動産市場には大きな地殻変動が起こるはずです。

編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2015年1月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。