悩ましい海外資産への課税 --- 岡本 裕明

アゴラ

1月19日の日経一面は「海外の口座情報を監視 富裕層の税逃れ防ぐ 国税庁、18年から 40カ国超と連携」とし、国税の並々なぬ意気込みを感じさせます。このところ、国税の課税に対する強化姿勢はより一層その勢いを増しているわけですが、この動きに多少の懸念がないとは言えません。


まず、「40カ国を超す税務当局と連携して日本に住む人が海外に持つ預金などの口座情報を捕捉し、2018年から国税庁に集約させる」とあるのですが、この「日本に住む人」が実はキーワードであります。

日本に住むという定義については時代と共に変質化しています。多分、北米も含め、20年ぐらい前は183日ルールなるものがありました。これは一年のうち過半数(365の半分は182.5)を過ごす国を主たる居住国とし、その国に課税権があると考えられていたのです。

ところがこれを逆手に3国以上にわたって住み歩くパーマネントトラベラーなる人が現れました。これですとどこの国でも183日を満たすことができず、課税ができないという問題が生じたのです。事実、私の知り合いで税に長けた方は日本、フランス、アメリカなどに居住地を持ち、いったいどこにいるのか分からない方がいました。あるいはカナダとオーストラリアと日本を季節に応じて移動する方もいます(某有名人の方もそうです)。

そこでこの「日本に住む」の解釈が実質主義にかわり、日数にかかわりなく実質的に住んでいるかどうかでその課税権を主張できるようになってきています。ところがこの実質は課税したい当局としては一番すり合わせがしにくいところで各国とも自国に課税権が生じると主張しやすい状況を生み出しているとも言えます。

例えば不動産の売買を通じて買った時と売った時の金額に差が生じた場合に課税されるキャピタルゲイン。不動産はその国に所有するためにその国家に通常課税権が生じます。仮に日本の居住者が外国不動産を売却したとしてもその不動産のある国のルールに従うはずです。その場合、その人は日本でも海外の不動産売却を通じた取引内容を確定申告しなくてはいけません。通常は二重課税を防ぐための外国税控除がありますので税メリットがさほどない国での売買ならば日本で更に課税される心配は小さくなります。

但し、日本側はその不動産を買った時の為替、売った時の為替をベースに計算し直すため、場合により為替差損益による日本での課税は生じる可能性はあります。ここは非常に面倒なところである意味、海外への投資をメンタル的に萎ませることになります。

当局の課税強化の大合唱は世の中の趨勢であるとしても多少曖昧さが残る居住の定義は日本人の海外投資を減退化させる可能性があるのです。

投資は地球上の隅々までそのチャンスがあり、それを通じて国際化が図れることもあります。海外に住む同朋が本国に送金するお金で経済が成り立っている人々も多いのです。例えばロシア、メキシコ、フィリピンなどは海外から本国への送金が非常に多い国ですが、日本も将来的にそうならないとは断言できないわけです。

例えば巷で囁かれる国債の大暴落説。これを信じる信じないは個人の勝手ですが、信じる人にとっては円資産より海外の資産という事になるでしょう。これは中国人が長けているのですが、資産を海外などに分散化し、リスクヘッジを行うというテクニックを駆使します(但し、中国人が海外に持ち出した資産は中国本土には再度持ち込めないらしいですが)。

そのような個人のリスクに対する選択の自由に対してメディアのトーンは国税が仁王立ちしているような書き方をしているわけでやや困惑してしまいます。

もう一つはこの国税の課税強化について誰かに相談ができるのか、という点であります。日本には会計士さんはたくさんいますが、インターナショナルの税務が分かる人は極めて限られます。大手会計事務所で海外事案などを直接的にプラクティスした方でリタイア、独立された方となる上にアメリカなど主要国は分かってもマルチカントリーで分かる人はいないのであります。

それは国税側にもいえます。以前税務署に別件で相談したところ、英文の書類は読めないので全部訳してください、と言われ唖然としました。つまり、課税強化とは言えども税務当局も人的不足、経験不足は否めない気がします。

このあたりは国税のポジショニングを改めてしっかりさせ、海外投資の芽を摘まないことが大事ではないでしょうか?

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2015年1月24日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。