ピケティとイスラム国の共通点

池田 信夫

きのうのBSスカパー「ニュースザップ」では、モーリー・ロバートソンと一緒にピケティの話をしたが、これはいま話題のイスラム国と関係がある。JBpressにも書いたように、イスラム国が示したのは、主権国家という制度が中東で無力化した事実だ。もともと国家が有効だったのは暴力を独占できたためだが、その前提が崩れ始めている。イスラム国はミサイルやヘリコプターまでもち、情報発信能力も高い。


ピケティの問題にしているタックス・ヘイブンも、テクノロジーで個人や企業が容易に国境を超えることができるようになった結果だ。タックス・ヘイブンを運用しているのはカリブ海の住民ではなく、ニューヨークやロンドンの投資銀行である。

デリバティブと称する金融商品も、ほとんどは「金融工学」なんか関係なく、租税回避の技術だ。重要なのは、各国の税法をすみずみまで理解して抜け穴をさがし、それを当局に摘発されない形で利用するinstitutional arbitrageである。これは国家のもう一つの条件である徴税権を侵害するもので、ある意味ではテロリストより悪質だ。

ピケティが指摘するように、このような非生産的なrent-seekingがグローバル資本主義の最先端だ。こうした地下経済が世界の総資産の1割を占めるとすれば、朝日新聞が賛同し、読売新聞が批判する「累進的な資本課税」は、それを促進するだけだ。

普通に考えれば、ケイマン諸島の政府を信用して何百万ドルも金を預ける人はいない。その担保になっているのは、旧宗主国のイギリスとシティの金融資本の信用なのだ。大英帝国は主権国家より古く、植民地は失ったが、そのソフトパワーは国家を超えている。

いま起こっているのは、ウェストファリア条約以来の国家モデルが暴力と資本によって無力化される過程だが、その先にあるのはピケティの思い描いている「グローバルな資本課税」のユートピアではなく、国境を超えた仮想的な植民地支配と、それに反逆する仮想的なテロリストの戦いかもしれない。

追記:番組では誤解をまねく表現があるが、投資銀行がマネーロンダリングをしているわけではない。仲介機関は合法的にやっているが、顧客がロンダリングに利用している場合がある。