最近、ホットなテーマとなっている経済格差について、イギリスのビジネス誌「The Economist」が興味深いデータを紹介しています。世界の富裕層トップ1%の富が、残り99%の富の合計を上回る時期を予想するグラフ(写真左)です。
経済格差の議論をする際、気を付けなければならないのは、それがストックとしての富(Wealth)を指しているのか、それともフローとしての収入(Income)を指しているのかを明確にすることです。また名目ではなく実質金額での議論をしなければ、真の経済的豊かさの比較はできません。
富の偏在についての左のグラフは、クレディ・スイスの分析データを参考に、オックスファム(Oxfam)が予想しているようですが、将来予測に関しては前提条件が緻密に計算されているとは言えず、誇張された雑駁な結果になっている可能性が高そうです。富の格差が広がっていることは否定できないとしても、それがどの程度のスピードでどの程度まで広がっているかを正確に計算するのは困難です。
むしろ、多くの日本人にとって衝撃的なのは、もう1つの収入の変化のグラフ(写真右)です。これは、2005年の購買力平価のデータを使って、1988年から2008年までの20年間に実質賃金がどの位変化したかを示したものです。右に行けば行くほど、グローバルに見て、実質の収入が多い人になりますが、実質収入額のレベルによって、20年間の収入の伸びが大きく異なることがわかります。
富裕層が豊かになっているのは、上位1%(グラフの右側)は60%以上も収入が実質的に増えていることで理解できます。しかし、意外なのは、最も伸びが大きいのは、それよりも50%~60%レベルに位置する人たちだということ。例えば、新興国のミドルクラスの人たちです。中国、インドネシア、インドといった国の中産階級が、急速に豊かになってきたことを示しています。
一方で、実質収入の伸びが小さいのは80%レベルに位置する人たちです。日本を含む、先進国の中産階級がこのレベルに位置していると思われます。
フローで見ると、新興国のミドルクラスが台頭し、先進国のミドルクラスが伸び悩んでいる。2つの世界の収入格差は急速に縮小し、先進国のミドルクラスはこの20年では相対的に最も貧乏になってしまったということです。
格差問題というと、シリコンバレーの起業家のようなスーパーリッチと貧困層の格差拡大がフォーカスされます。世界の貧困問題の解決も大切なテーマですが、足元を見ると日本人自身の実質収入が伸びない状態が続き、世界的に見ると自分たちが相対的には一番「貧乏」になってしまいました。さらに円安が続けば、この傾向に拍車がかかります。
この流れが、まだ当分変わらないとすれば、自分が働く以外の収入を見つけなければ、さらに状況は悪化していく。ただ指をくわえて見ているだけで良いのでしょうか。
編集部より:このブログは「内藤忍の公式ブログ」2015年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。