石井正則
(原子力国民会議・東京中央集会実行委員)
(投稿原稿)
原子力国民会議ホームページ
原子力国民会議とは
2014年12月4日、東商ホール(東京・千代田区)で、原子力国民会議とエネルギーと経済・環境を考える会が主催する、第2回原子力国民会議・東京大会が、約550名の参加を得て開催された。九州や広島などでも国民会議の全国集会の一環として同時期に開催された。それを報告したい。(写真)
原子力国民会議は、我が国の原子力の混迷からの脱却と福島震災事故からの復興を願い、「新しい原子力を創る」という声を結集すべく、2014年5月に発足した一般社団法人である。6月に第1回東京中央集会を開催し、「原子力発電の安全確保と利用、経済の再生ならびに復興に向けた要望」を安倍晋三内閣総理大臣に提出して原子力発電の早期再稼働を訴えた。ちなみに、このときは全国で1600人余りの参加があった。
しかしながら、川内原子力発電所のほか数か所で再稼働の見通しがたったものの、どういう訳か、はかばかしい進展は一向にみられない。その結果、原子力発電停止に伴う化石燃料への代替と再生可能エネルギー導入により、電気料金は震災前の3割増、再エネ賦課金も2014年度には約6500億円と急増している。
この集会では「急げ「再稼働」、ストップ「電気料金値上げ」」をテーマに、困窮する電力多消費産業からの訴えと、置き去りにされている二酸化炭素排出量低減の視点から、エネルギー経済と原子力の役割を示し、経済の活性化と温暖化抑制に関する要望書を採択して経済産業大臣に提出することにした。運転再開が効率的に進めば、料金値上げは避けられるという単純な事情は心に留めておきたい。原子力規制委員会の不作為を忘れてはならない。
集会では短期的には早期再稼働を改めて訴えるとともに、安定した経済と地球環境維持のため、中長期にわたり一定規模の原子力が必要であることを明らかにした。震災後、原子力の事故リスクのみが焦点となっているが、安定して経済競争力を維持したうえ、地球温暖化防止も視野に入れたエネルギー計画を再構築する必要があり、時宜を得た集会であった。
集会では「日本のエネルギーと経済・環境を考える会」代表の田渕哲也氏(元参議院議員)からの挨拶、敦賀市長・河瀬一治氏から来賓講演の後、岡本硝子社長・岡本毅氏、日本基幹産業労働連合会中央執行委員長・操谷孝一氏から電力多消費産業の窮状を訴える講演があった。
更に地球環境産業技術機構(RITE)秋元圭吾氏から気候変動リスクに関して、また常葉大学教授、山本隆三氏からデフレ脱却と日本経済の再生について講演をうかがった。
引き続き九州地区、広島地区の集会報告、今回の集会を踏まえた決議文(要望書)を採択し、宮健三第2回全国集会実行委員長の閉会挨拶をもって終了した。
以下にその要旨を紹介する。
1.安全を確認した原子力発電所はただちに再稼働せよ!
田渕哲也氏より、主催者挨拶の中で、福島事故により原子力産業は揺れており原子力問題が政治の焦点になっているが、エネルギー政策を確立し、安全が確認された原発はただちに再稼働すべきとの強い意向が示された。
発展途上国では原子力が急増しているが、日本では原子力発電所が停まっており、電気コストの上昇で、鉄鋼など電力多消費産業は疲弊し弱体化している。日本の経済を考えて、しっかりした原子力政策を立てることが大切であるとの挨拶があった。
2.共栄共存で取り組んできた立地地域 福島の復興に全力で
来賓として参加された河瀬一治敦賀市長は、共栄共存で原子力に取り組んでいる立地地域自治体で設置する全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)会長でもある。河瀬氏は、開口一番、訴えたいいことは福島の復興に国が全力で取り組んでもらうことであると強調した。
大阪万博で展示された「原子力の灯」をともした敦賀半島には、現在15基の原発があり、原子力の事故を教訓にして、より安全な原発に向けて活動を進めている。原発停止によるコスト高とCO2の排出、毎日100億円の損失は、経済に大きな打撃を与えている。停まっていては原子力への迷いと不信が増長し、学生も離れてゆく。立地地域ではこれからも原子力を応援する人材が育ってきているので、政府に早くエネルギーミックスを決めてほしいとの要望をあった。
3.電力多消費産業からの訴え
(1)世界トップの座を脅かす電力料金の値上げ
電力多消費企業である岡本硝子社長の岡本毅氏からは、火力発電による原子力代替により上昇した電気料金で、24時間稼働を必要とするガラス溶融炉をはじめとし、製造費用における電気料金が極めて高く、利益を圧迫、コスト競争力が低下していると訴えた。
電気料金の上昇により製造コストにおける電力費比率が増大する一方、販売価格の下落傾向が続き、後工程の海外生産委託によりこの苦境に対処している。同社は歯科治療ライトの反射鏡、プロジェクター用特殊レンズなどで世界トップを占めている。これ以上の海外生産委託は、技術の海外流出をとなり製品優位性を失う。速やかに安全性を高める措置を講じ、原子力規制委員会の審査に通ったものを順次稼働、更なる電気料金値上げを避けてほしいとの期待を表明した。
(2)雇用の確保に向け原子力発電所の再稼働を
操谷孝一氏は日本基幹産業労働組合連合会の中央副執行委員長である。連合会に加盟している電炉産業は、使い終わった鉄鋼製品の再利用や鋳物の生産に従事している電力多消費産業である。ライバルである韓国の電気料金は日本の1/2、約2万人を抱える電炉業界は夜間と土日の安い電気を使い、夜間や休日に仕事することを余儀なくされている。
それでも業界の利益は薄く、電気料金の値上げでこの利益はなくなってしまう、との窮状の訴えがあった。恒常的に大量の電力を利用しなければならない製造業へのインパクトは企業努力を超えるものであり、事業撤退や雇用に直接的な影響が発生している。既に37社が倒産し、3組合が廃止になっている。
エネルギー政策は国の将来に決定的な影響を与えるものであり、産業界の現状を踏まえた政策を決定・展開してほしいとの要望があった。
4.講演
(1)気候変動リスクの増大と原子力による対応
地球環境産業技術研究機構(RITE) 主席研究員の秋元圭吾氏からは、地球温暖化抑性には21世紀を通した対策が必要であり、温室効果ガスの9割を占めるエネルギー起源の二酸化炭素削減がその成否を担うこと、削減には中長期にわり一定規模の原子力の寄与が必要との分析結果が示された。
2013年末公表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書では、「人間活動が20世紀半ば以降に観測された温暖化の主な要因であった可能性が極めて高い」「温暖化との因果関係は科学的には必ずしも明確ではないものの、これまでとは異なった気候変動が生じてきている」とし、気候変動リスクに向き合い、これにしっかりと取り組むことが必要であるとされている。温暖化による2100年の気温は約4度、海面は45~82cm上昇すると推定されている。また、これまでと異なった気候変動として、近年欧州を襲った熱波や米国、フィリピンを襲ったハリケーンや台風、日本での集中豪雨や大型台風などの異常気象がしばしばみられるようなった事態は深刻に捉えられるべきである。
日本は震災事故後、原子力発電所停止の長期化により、昨年度の二酸化炭素排出量は過去最高を記録、原子力発電の事故リスクのみが注目され、気候変動リスクを軽視され過ぎの感がある。これらの被害や影響を冷静に見極め、全体としてリスクが小さくなるような対応が必要である。
再生可能エネルギーの拡大は重要であるが、当面はこれをもって二酸化炭素排出量削減に大きく寄与するとは考えられない。原発の長期停止による排出量増大が及ぼす気候変動リスク、経済的リスクおよびエネルギー安全保障・安定供給阻害リスクがかつてなく高まっている。当面の安全性の確保を前提としたうえで、原子力発電の迅速なる再稼働とともに、中長期的に一定程度の原子力発電利用を進めていく必要がある。
IAEの見通しでは、2030年における日本の原子力の比率は、原子力縮小ケースで15%、中間規模で19%、一定規模維持ケースで26%としている。原子力縮小ケースでは石炭発電が増え、二酸化炭素排出量が上昇する。
二酸化炭素排出量削減は21世紀を通して取組む課題である。再生可能エネルギーを原子力の代替エネルギーとするのは幻想であり、原子力発電の再稼働はもとより、2030~2050年、更にその後に向け、リプレース、新規建設も見据えての対応が必要であるとの認識を深めた。
(2)生活と産業を支える原子力–原子力と幸せとの関係
常葉大学経営学部教授の山本隆三氏は、1人当たりの国内総生産が減っては持続的発展ができなくなる、デフレの脱却には製造業の復活が欠かせない、そのためには安定で安価なエネルギー供給が必要であることを強調した。
1990年前半、日本の製造業の作り出す付加価値額(国内総生産額、GDP)は米国のそれに迫ったが、現在の日本の製造業の付加価値額は米国の約半分である。この期間はまさに「失われた20年」、経済の低迷時期であった。低迷のかなりの部分がデフレに影響されたことを考えると、アベノミクスによるデフレ脱却戦略は重要である。この実現には金融政策に加え、安価で安定した電力供給が必要である。
これは再生エネルギーでは実現できない。ドイツは電力料金の高騰に悩み電力固定価格買取制度(FIT)を止めた。スペインでは再生エネルギーにより電力業界に4兆円の赤字をもたらした。ドイツの電気代はアメリカの3倍であり、この高料金が経済にどう影響するかが問題である。
将来の低い電気料金と安定供給が見通せないなかでは、製造業への投資が行われるはずはない。安価、安定的な電力供給には原子力の活用が欠かせない。稼働に伴うリスクはゼロではないが、稼働しないことによる経済への影響は大きい。日本の1人当たりGDPは、購買力平価ベースでは、既に韓国に抜かれている。このままでは先進国から中進国になりかねない。
エネルギー政策を情緒的に論じているマスコミの罪は大きい。原子力のないリスクの方が、原子力のあるリスクより大きい。子供たちの将来のためにも、この不安定な電力事情は根幹的に解決しておくべきであろう。
5.全国状況報告
九州地区と広島地区から、それぞれ九州大学名誉教授清水昭比古氏、近畿大学非常勤講師後藤裕宣氏より報告があった。
九州地区では川内原子力発電所が原子力規制委員会の適合性審査に合格し再稼働に向けて準備が進められているが、玄海原子力発電所は適合性審査中である。九州集会は福岡と唐津で実施した。特に、女性の参加者に対し、低線量被ばくについての理解を深めてもらうことをねらいとし、更に、安全対策が進んでいることを知ってもらうため玄海原子力発電所の見学ツアーも実施した。
広島大会は会では80名の参加者を得、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告を紹介、温室効果ガス削減にはエネルギー選択の寄与が要であることから、原子力発電所の速やかな再稼働が必要との理解を深めた。
6.決議文の採択
集会の最後に、集会で取り上げられた産業界からの訴え、日本経済の活性化の必要性ならびに地球温暖化抑制を視野に入れ、短期的には原子力発電所再稼働促進による電気料金を事故前水準に戻すため、中長期的には経済の安定的な成長と二酸化炭素の継続的削減するために、一定規模の原子力発電が必要なことを訴える決議文を採択した。この決議文はエネルギー計画の立案、推進を担当する経済産業大臣に提出することとした。
7.閉会挨拶
原子力国民会議第2回全国集会実行委員長、宮健三氏より、世界や日本の将来を真剣に考えれば考えるほど、原子力なしの将来は人々の幸福と安寧を不確実にすることがこの集会で明らかにされたとした。原子力を否定する者は現実を正視していないことになるのではないか、早く原子力を国民の手に取り戻し、安全な新しい原子力を創ること訴え続けて行くとの強い意向が表明され、閉会した。