韓国が狙う日本の原発、重電、鉄道技術 --- 井本 省吾

アゴラ

サムスン電子を代表とする韓国の家電、半導体産業は1990年代に日本を追い上げ、2000年代後半には完全に日本を追い越した。今は液晶テレビやスマートフォン(スマホ)、半導体メモリーで日本企業を大きくしのぐ圧倒的なパワーを発揮している。

だが、2010年代後半に差し掛かった今、その韓国を急ピッチで追い上げている国がある。中国だ。代表はスマホで急成長している小米(シャオミ)である。


米アップルのiPhone(アイフォン)のような高機能を備えながら価格は半額ほどと安く、中国国内で爆発的な人気だ。中国以外でのグローバル展開が本格化するのも間近いといわれる。半導体でも中国企業が本格投資に動いている。

かつてのサムソンなど韓国企業とそっくりである。1980年代から90年代前半まで、NEC、日立、東芝、富士通など日本の半導体メモリー産業は世界を支配し、向かうところ敵なしといわれ、「韓国の追い上げなどモノの数ではない」と侮っていた。

だが、韓国企業の台頭が目立ちだしてから、わずか10年で世界市場の王座を奪われ、衰退の道を転がり落ちた。テレビ、ビデオなどの家電産業、日本でしか通用しないガラパゴス携帯と言われた携帯電話とその進化形であるスマホも同じ道をたどった。

日本企業がたどった道を今、韓国企業がたどる可能性が高まっている。すでにサムソン電子の業績は悪化している。2014年の連結業績(速報)は売上高が205兆ウォン(約22兆円)と13年比で10%減。営業利益も32%減の25兆ウォンで9年ぶりの減収減益だった。最大の要因が利益の約7割を占めていたスマホ事業の不振だという。

現代自動車も14年12月期は最終利益が前年比15%減と不調だ。ウォン高が主因だが、その背後に中国の自動車産業の追い上げがあり、韓国の代表的な産業は曲がり角を迎えている。

では、どう脱却するか。韓国は日本の次の動きを注視している。日本の家電・電子産業は今、家電や半導体メモリーをあきらめ、生き残りをはかるために別の分野に軸足を移している。

日立製作所は電力や鉄道などの重電、社会インフラ分野に、パナソニックは住宅、車載機器分野を突破口にして業績回復を図っている。

この日本の技術を修得しようとしていると言われる。韓国の家電、半導体、自動車産業が発展したのと同じ方程式である。もともと韓国は独自に産業技術を開発する力が乏しく、またその開発意欲も希薄だ。日本や米国からとってくればいいと考えているフシがある。

技術を買うだけではない。ポイントとなるノウハウを持っている日本の技術者に狙いを定め、高額の報酬で雇ってきた。数年して、その人物の持つ技術をすべて吸収すると解任し、また新たな技術者をスカウトする。

米国のプロ野球選手をスカウトするのと同じである。日本企業に勤める現役の技術者に高額のアルバイトを要請した例も少なくない。会社がひける金曜日の夕方、東京や大阪を発ってソウルに直行、月曜日に帰国する。そうして韓国企業はキーポイントとなる要素技術を日本から獲得して行った。

技術を盗むこともしばしばで、特許紛争が起こっているが、技術を自力開発しない代わりに特許紛争に対する法的整備には注力している。以前会った日本の家電メーカーの幹部は「雇っている弁護士の数はこちらより1ケタ多い」と舌を巻いていた。

それと同じことを重電、原子力発電、鉄道などでやろうとしていると、事情通は打ち明ける。

伊勢雅臣氏がブログで「韓国技術大国の実像」と題し、欠陥や事故が絶えない韓国の原発や新幹線技術の問題を解説しているが、その解決のためにも韓国は日本の技術が欲しいに違いない。

日本は今、原発が止まり、原発関連の技術者は仕事が減り、意欲をなくしている。その技術者に「ウチに来ませんか」と甘い誘いをかけているともいう。

日本企業は重要な技術の管理、開発体制をきちんとしないと、家電や半導体と同じ苦い思いを味わうことになる。とりわけ稼働の止まった原発関連技術はその危険が強い。これは企業よりも日本政府に責任がある。法的根拠のない原発停止を続けていると、国力を衰退させるばかりだ。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年1月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。