韓国、対日関係のホンネとは --- 井本 省吾

アゴラ

韓国通信社の聯合ニュースによると、韓国の李明博前大統領は来月に出版される回顧録「大統領の時間」で、旧日本軍の慰安婦問題について、2012年、当時の野田佳彦首相が慰安婦被害者に手紙を送って謝罪し、日本政府の予算で補償することで最終合意する予定だったが、会議直前に衆議院が解散されたため合意には至らなかったと述懐した。


同ニュースはこうも書いている。

李氏は日本の右傾化について、「危険なレベルに達している」と批判しながらも、「韓国の3番目の貿易相手国で、緊密な友好国であることも否定できない」と指摘。「歴史や独島問題では原則的に対応しても、経済・文化・安全保障分野では最も緊密に協力すべき対象」との認識を示した

野田政権の後を継いだ安倍晋三政権は、一度日韓条約で決着したことを蒸し返す考えはなく、政府予算で慰安婦に補償することを考えていない。ここから、日韓関係の冷却化が始まったが、安倍政権の判断は国際法の常識から言って正しい。

李元大統領は「慰安婦問題などの歴史では原則的に対応するとしながら、経済、文化、安全保障分野では最も緊密に協力すべきだ」と言っている。

現在の朴槿恵政権も基本的には同じだ。一昨年来、韓国経済は下降線をたどっており、李大統領時代よりも日本との緊密な経済協力を必要としている。

だから、日本は慰安婦問題で妥協する必要はないのである。相手もホンネでは日本が妥協しなくても経済関係は続けたいと望んでいるのだ。

今年は日韓国交50年の節目だが、朴大統領は安倍首相との首脳会談を実現することについて「(慰安婦問題についての)日本側の姿勢の変化が重要だ」と強調しているが、それは韓国内向けのポーズにすぎない。

安倍政権は朴大統領が日本側が慰安婦問題で譲歩しないかぎり、安倍首相と会談しないと言うなら、「仕方がないですね」と、相手の態度が変わるのを待つ姿勢を続けていればいいのである。

経済協力を望む韓国はしびれを切らして、日本側に接近して来るだろう。たとえ、現状が続いたとしても、日本は少しも困らない。一つ残るのは米国だ。

韓国の行き過ぎた対中接近を嫌がる米国が、様々な形で日本側の譲歩を催促している。しかし、日本としては国際条約で決まったことを翻すわけには行かないということを条理を尽くして説明するのが上策だ。国際法を知悉している米国当局も、日本側の言い分に納得せざるをえないだろう。

安倍首相はその点もにらんだ上で行動していると思われる。外務省の役人は何でも友好第一で、少しでも関係が悪化すると、すぐに相手国に擦り寄り、譲歩しようとする。高い立場から国益を守ろうとする見識に欠けるのだ。野田政権時代の外務省もその姿勢で、野田前首相もそれに引きづられたのだろう。安倍首相がそこに「待った」をかけたのである。

それを、李大統領のように「日本の危険な右傾化」だと批判する日本人も少なくない。そうした日本人をふやすことが韓国や中国の狙いでもあるのだろう。かくいう私も「危険な右派日本人」と言われよう。

言い尽くされた議論で、ここから先は同じ日本人ながら、考え方は平行線をたどるしかない。後は沈黙あるのみである。


編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年1月30日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。