1万円札を破いてみて分かったこと --- 岩瀬 大輔

アゴラ

岩瀬大輔

「電車男」「モテキ」「寄生獣」などを手掛けた映画プロデューサーの川村元気さんと対談をしました。120人の億万長者の取材を元に書いた小説「億男」を題材に、「お金とは何か?」という少し哲学的な問いがテーマです。ライフネット生命の自社メディア「ライフネットジャーナルオンライン」の企画です。


私たちの人生に大きな影響を持つ「お金」とは、いったい何なのか。川村さんとの対話を終えたときには、ポケットに入っているお札やコインが、なにか一つの生命を持った、生き物のように思えてきました。

印象に残った発言を紹介します。

そもそもお金をテーマにした小説を書こうと思ったきっかけについて。

川村:お金は人間が発明したものなのに、今や人間がお金に振り回されている。だからこそ、苦手でも知っておかないといけないんじゃないかと思ったんです。真っ暗闇のトンネルは怖いけど、光があればそんなに怖くない。お金も同じで、その実態が見えてくれば決して怖いものではないし、自分でコントロールできるものだと思いました。

日本人のお金観について。

川村:いろんな人から「お金を触ったら手を洗いなさい」と言われたことですね。あれって過剰だと思いません?電車の手すりのほうがよっぽど汚いのに、みんな必要以上にお金を汚いものだと思い込んでいるような気がします。
日本の文化の中に、「お金は怖いもの、汚いもの」といったネガティブなイメージが植え付けられているから、お金のことを話題にするのが苦手だという人が多いんだと思います。僕自身、お金の話題はすごく苦手ですし。

お札やコインは多くの人が手に触っているから汚れている、と子供の頃に教わったのですが、確かに言われてみると手すりのほうが汚いはず。物理的な「汚さ」を超えて、どこか汚らわしいもの、という考えが日本文化にあるのだろうか。外国でも日本と同様に「お金が汚い」と教えている文化はあるのだろうか。

「品のいいお金の使い方」について。

岩瀬:億万長者の方をたくさん見てきて、何か気づいたことはありますか?

川村:人間、いくらお金を持っても、品(ひん)だけはどうにもならないな、ということですね。僕の知り合いに、「人生を楽しむ達人」みたいな人がいて、僕は勝手に師匠と呼んでいるんですが、その方は何をするにも品がありますね。

岩瀬:具体的に「品のある人」ってどういう人ですか?

川村:お金の使い道も人付き合いも、自分の判断基準で選ぶことができる人ですかね。

岩瀬:お金持ちの中には凡人にはわからないような美術品を買い揃えている人もいますけど、その品のあるなしは、自分の審美眼を信じて選んでいるか、お金があるからと闇雲に買っているかで分かれるわけですね。

川村:美術品選びをセンスの良い友人と一緒にやっている人もいますね。アートを見る目よりも、人を見る目がある人はそのほうがいいですね。“アートが好きな自分”の最適解を出してくれる人をキュレーターに付けている人というのも、人選びの判断基準を自分で持っているという意味で“品のある人”だと思います。

「お金は神様のような存在だ」ということについて。

川村さんが大勢の人の前で1万円札を破いてみたときの、周囲の反応が印象に残ったという話です。
岩瀬:『億男』でも、「神とお金は似ている」ということを書かれているように、神様がお金の代わりなのかもしれませんね。

川村:そう思います。以前お金の実験と称して、居酒屋でみんなが見ている前で、本物の一万円札を破いたことがあります。するとものすごいドン引きで。

岩瀬:でしょうね(笑)。

川村:その時のみんなの表情を見て、お金を破るっていうのは、仏像を壊したり宗教画を破いたりするのと等しい行為なんだな、と思いました。だからお金というのは、紙や金属とはいえ、宗教みたいなものなんですね。人間の気持ちがお金というものの価値を決めていて、そのお金を追い求めるあまり大事なことを見失ってしまう。

確かに、破いたお札も銀行に持っていけば、きれいなお札に変えてもらえるはず。破いたのが千円でも人々の反応は同じだったことでしょう。無意識のうちに我々はお金に対して、その純粋な貨幣的価値を超えた、特別な価値と意味合いを持たせているような気がするのです。

最後に、川村さんがお子さんにどのようなお金の教育をしたいか、ということについて。お金は決してネガティブなものではなく、ポジティブなものとしてとらえよう、という姿勢です。

岩瀬:川村さんにはお子さんがいらっしゃるということですが、どういうお金の教育をしたいですか?

川村:欲やお金というものを、ネガティブではなく、肯定的にとらえるように育ってもらいたいですね。みんな、「お金は汚いもの」と教えられているから、急に大金が入ってきた時に、おかしくなっちゃうんだと思います。小説を書きながら気付いたんですが、お金って、人が人を信じたいという思いを形に変えたものだから、「実は良いものだ」とも思ったんです。

欲望という言葉も、どこかネガティブな響きはありますが、明日ここに行きたいとか、誰々に会いたいとか、これを食べたいとか、そういうものがあるから人間は生きていける。お金も欲求も、素直に肯定することが大事だと思います。

ぜひ、本編も読んでみてください!


編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2015年2月5日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。