ヘッジファンドがファンドでなければならないわけ

森本 紀行

理屈上、ファンドではないヘッジファンド戦略もあり得る。実際、セパレイトアカウント(合同運用ではない一人の投資家専用の運用口座)を設定して、ヘッジファンドの運用会社に運用させることも行われている。


ヘッジファンドがファンドという建付けで登場してきたことには、それなりの理由もあろうが、ファンドという形態がもつ諸特性のうち、ヘッジファンドの戦略にとって、本質的なものもあれば、そうでないものもあるはずである。しかし、少なくとも、自由度の高さは、本質的な要件である。

自由度の高さというのは、規制の緩さと同じことではないのだが、やはり、高度に規制された現代の資本市場の仕組みのなかで、自由度の高い運用を確保するためには、ある程度、規制環境の緩さということも要件にはいってくることは、避け得ない。

実際、ほとんどのファンドは、ケイマンなどの、いわゆるオフショアに設置されている。このようなオフショアの場合、やはり、ファンドの設立と維持管理に関し、設計の自由度や費用等の面で、利便性が高いことは、否定できないのである。

もちろん、世界的に、金融規制は強化されてきている。しかし、高度な規制を課しているのは、主に、投資のプロではない個人投資家の保護を目的としているからである。

ヘッジファンドの投資家は、明らかにプロの投資家と看做さざるを得ない。プロの投資家を対象とする限り、多くの規制は不要である。より簡易な仕組みを用いることで、費用を節約し、また運用戦略の自由度を確保することは、投資家の利益にもなるのである。

もう一つの重要な要件は、ファンドの秘匿性である。セパレイトアカウントにしてしまったら、運用内容が丸見えである。それでは、運用にならないヘッジファンド戦略が多いのである。

そして、最後に、レバレッジ。借り入れによって表面的な運用財産を増やし、より高い収益を目指すことは、必ずしも、ヘッジファンドの運用戦略の本質的な要素ではない。しかし、多くの戦略にとって、外部借り入れを適切に使い、投資効率を高めることは、本質的な要素となっている。レバレッジには、ファンドという構造は、便利である。

ということで、ヘッジファンドの戦略は、ファンドでなくても実行できるのだが、多くの場合は、ファンドにしたほうが、よりよく実行できるのである。故に、ヘッジファンドは、ファンドなのである。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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