外国人介護労働者受入れOKだが --- 楢原 多計志

アゴラ

1月27日、厚生労働省の検討会が外国人技能実習制度の対象職種に「介護」を追加することを容認する中間報告をまとめた。安倍晋三首相の直言もあり、「先に結論ありき」の感は否めないが、中間報告を読むと、介護業界や経営団体、労働団体の間には埋めきれない溝が…。


■消えない疑念

「外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会」。名称は長いが、7回の討議で出した結論は「条件付きOK」。どんな条件か。検討会は具体的な論議に入る前には3つの基本姿勢を打ち出した。少し長いが、今の技能実習制度に対する検討会構成員の思いがよく表れているので、紹介したい。

「介護職に対するイメージ低下を損なわないようにすること」「日本人と同様に適正な処遇を確保し、日本人労働者の処遇・労働環境の改善の努力が損なわれないようにすること」「介護は対人サービスであり、また、公的財源に基づき提供されているものであることを踏まえ、介護サービスの質を担保するととともに、利用者の不安を招かないようにすること」。外国人介護労働者を歓迎する気がないように読める。それでも、ゴーサインだ。

なぜ、歓迎できないのか。厚労省は2025年までに約30万人の介護職員増員が必要と発表。介護事業者はのどから手が出るほど介護人材が欲しがっている。だが、今の外国人実習制度の枠内で受け入れた場合、介護職のイメージダウン、賃金低下など処遇悪化、利用者離れを誘発するのではないか─ という疑念が消えないからだ。

■消えない悪評

1993年かに始まった外国人技能実習制度は、発展途上国の外国人を労働者として3年間限定で「技能実習生」として受け入れる制度。現在、農業、製造業など68業種が対象で、中国、ベトナム、フィリピン、インドネシアなどアジア諸国を中心に約15万人が就労している。

制度の目的は「優れた日本の技能を海外に移転させるため」だが、多くの受入事業者からすれば、「日本人労働者が嫌がる仕事をやってくれる」というのが本音であり、技術移転の名を借りた外国人労働力確保というのが実態に近い。

しかも日本人労働者との賃金差別、賃金未払い、社会保険適用逃れ、劣悪な住居環境、集団離職(逃亡)、技能指導の欠落などがたびたび指摘され、2010年にやっと最低賃金制の適用など雇用基本ルールが適用された。

背景には、人手不足に加え、「安い労働力」の獲得を目論んで外国人を受け入れてきた事業者の思惑と、技能習得より高い賃金を稼ぐために入国する多くの外国人労働者の存在がある。どっちもどっちだが、技能移転に真摯に取り組む事業者や真剣に学んでいる実習生からみれば、こうした実態は不愉快極まりないないだろう。

介護が、これまでの実習職種と根本的に異なるのは、公的財源をベースにした対人サービスであることだ。名ばかりの座学や単純労働ばかり繰り返すような実習は許されない。最悪の場合、利用者の命や健康にも影響しかねないからだ。また超高齢社会下での職務・職責の重大性からみても日本人介護職員同等の処遇は当然だ。

■日本語能力「N4」

中間報告は7つの受入れ条件を示した。(1)技術移転の範囲を明確にする(食事や排せつなどの身体介護は必須)、(2)コミュニケーション力を確保する(入国時、基本的な日本語が理解できる「N4」程度を要件とするが、日常的に使う日本語を理解できる「N3」程度が望ましい)、(3)評価システムを構築する(毎年修了時ごとにレベルを設定)、(4)実習機関の範囲を設定する(居宅系サービスは除外)、(5)実習体制を確保する(特養など常勤職員に応じて受け入れ)、(6)日本人との同等処遇を担保する(賃金台帳の確認など)、(7)監理を徹底する(実習実施機関を監督指導できる機関の設置)。

どれも当然と言えば、当然だが、この条件を完全にクリアできるのか。(2)では日本語能力のレベルが論議の的となった。「入国前なら日本語能力はN4程度でもいい。実習や生活を通じて言葉や会話は進歩する」と受け入れに積極的な介護施設団体や経済団体。「最低でも日常会話ができなければ利用者と意思疎通ができない」と慎重な介護福祉士養成機関や学識経験者。「だれがレベル到達を判定するのか」と受入れそのものに疑問視する労働団体。はっきり温度差が出た。

検討会の中間報告などを受けて政府は、外国人技能実習制度の改正準備に入る。16年度から実習期間を3年から5年に延長し、介護の場合、介護福祉士資格を取得者には在留期間の延長を認める方針だ。

楢原 多計志
共同通信社 客員論説委員


編集部より:この記事は「先見創意の会」2015年2月3日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。