衰退する日本の新宗教 --- 島田 裕巳

アゴラ

去年(2014年)の夏、たまたま私は8月1日に大阪に行く用事があった。8月1日と言えば、日本の新宗教の代表であるPL教団(正式にはパーフェクト・リバティー教団)が行う花火大会の日に当たっていた。そこで、家族も伴い、これを見に行くことにした。30年近く前に一度行ったことがあり、あまりのすごさに圧倒されたことがあったからである。


ただ、これは、花火大会ではなく、教団にとっては重要な神事である。初代教祖の御木徳一は、晩年自分が「死んだら嘆いたりせずに花火を打ち上げて祝ってくれ」と言っていた。その教祖のことばにしたがって行われているわけで、正式な名称は「教祖祭PL花火芸術」という。

私自身も楽しみにしてPL教団の本部のある富田林市に向かった。会場には多くの人間がつめかけていた。そして、神事が行われた後、花火が打ち上げられた。

最初は、さすがPLの花火は違うと思って見ていたのだが、次第に前に見たときと比べて、派手ではなくなっている気がしてきた。「いったいこれはどうしたことだろうか」と思っていると、ラストに一斉に花火が打ち上がるところがほんの短い時間で終わってしまった。これには、正直驚いた。

前に見たときは、これでもかという具合に花火が上がり続け、空が燃えるているように見えた。ところが、今回はまったくそうではなかった。家族はそれなりに満足していたが、昔を知る人間からすると、いったいあの花火はどうなってしまったのかと落胆の思いがわき上がってきた。

他の観客のなかにも、同じような感想を同伴した人間に語っている人もいた。翌日の新聞を見ると、記事になっていて、14万発の花火が上がったとされていた。これを見て、私は落胆の原因をはっきりと理解した。なにしろ以前は、20万発の花火が上がっていたからである。
これに接して、私はPL教団が相当に衰退しているのではないかと感じた。実際、その後には、高校野球の名門だったPL学園の野球部が、部内でのいじめや監督の不在を理由に、来年度は部員を募集しないという発表があった。週刊誌などの報道では、その背後に教団の衰退があるとされていた。

宗教団体の内情は、どこもなかなか分からないものである。信者の数にしても正確な数字は出ない。ただ、各教団は、規模が大きなところは、毎年宗教法人を所轄する文化庁に信者数を申告しており、その数は、『宗教年鑑』に掲載される。これは、いわば公称の数字ということになるが、これしか頼りにならないので、これを使ってPL教団の信者数の変化を見てみることにした。

私の手許には、平成2年版の『宗教年鑑』があったので、それを文化庁のHPに載っている平成24年版の数字と比較してみた。1990年から2012年までの22年間に、どういった変化が見られるかを確かめてみたのである。

それによると、平成2年版で、PL教団の信者数は181万2384人となっていた。これはかなりの数である。ところが、平成24年版では、それが94万2967人となっている。この22年間で、信者数は86万9417人も減少したことになる。ほぼ半減である。

PL教団がこうした数字を発表しているということは、実際にはかなりの規模で、もっと言えば驚異的な規模で信者数の減少が起こっていることになる。近年、PL教団では、支部の教会の整理統合を相当に進めている。それも一つの教会に所属する人間の数が減り、維持運営が難しくなったからであろう。

花火についても、経費削減が行われたのだろうし、PL学園がごたごたしているのも、教団の力が衰えているからに違いない。ネット上の情報なのではっきりしないが、教団の機関誌の購読者は7万人程度しかいないとも言われる。

では、ほかの新宗教ではどうなのだろう。私が、『日本の10大新宗教』(幻冬舎新書)で取り上げた教団を中心に見ていくと、衰退はPL教団だけではないことが明らかになってきた。

ただし、『宗教年鑑』の平成24年版では、単立法人と言って、その下に教会などをもっていない包括法人でないところについては、信者数が載っていない。したがって、すべての教団について数字をあげることができないが、分かる範囲で述べれば次のようになる。最初にあげる数字が平成2年版のもので、後が平成24年版のものである。

天理教180万7333119万9652
大本17万246116万9525
生長の家82万198861万8629
天照皇大神宮教45万444247万9707
立正佼成会633万6709323万2411
霊友会316万5616141万2975
世界救世教83万575683万5756
真如苑67万251790万2254

日本最大の新宗教教団、創価学会が含まれていないのは、ここが単立の宗教法人だからで、平成2年版でも数はまったく発表されていなかった。ただ、創価学会は独自に信者数を発表していて、現在では827万世帯である。世帯数で発表するところに特徴があるが、この数は近年変化していない。

今あげた数字を見てみると、信者数を減らしている教団が少なくないことが分かる。しかも、100万人以上の信者数を誇っていた大教団であるほど減少は著しい。霊友会など、175万人も減少し、55パーセントも減っているのである。

天理教も60万人、立正佼成会も310万人近く減少している。そうした教団に比べると目立たないが、生長の家でも、20万人以上減っている。世界救世教の数字が変わらないのは、それが実情を示していない証である。

増えているのは、微増の天照皇大神宮教を除くと、真如苑だけである。真如苑の公表する信者数は、『日本の10大新宗教』でその理由を述べたが、かなり正確なもので、実数と考えていい。その点からしても、新宗教のなかで、真如苑だけが伸びていると言える。

真如苑の場合は、接心という簡易なカウンセリングに近いものが中心で、組織としての活動はそれほど活発ではない。その点で、他の新宗教の教団と同列に扱っていいのか、そこには問題がある。

おそらく各教団が報告している信者数は、これでもかなり水増しされている可能性がある。となると、それぞれの新宗教教団は、衰退が著しいと見ないわけにはいかない。それぞれ信者の高齢化が進んでいるとも言われるが、これは、世界的な傾向でもある。イギリスでは、国内の新宗教について高齢化が進み、教団の活動が停滞していることを指摘する論文も発表されている。

日本の新宗教がその勢力を拡大したのは高度経済成長の時代で、都市に流入してきた地方の人間たちを吸収することで大教団への道を歩んだ。

すでに高度経済成長は過去のものとなり、日本は低成長、あるいは安定成長の時代に入って久しい。となると、新宗教に入信してくる人間はいなくなる。

創価学会は、他の教団に比べると世代交代に成功した方だが、それでも外の人間が折伏されて新しく会員になることはほとんどなくなった。新入会員は、会員の家に生まれた赤ん坊だけだったりするのである。

島田 裕巳
宗教学者、作家、東京女子大学非常勤講師、NPO法人「葬送の自由をすすめる会」会長。元日本女子大学教授。
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