12日の経済財政諮問会議の議事録から、黒田総裁の発言が削除されたことが、いろいろな憶測を呼んでいる。日経新聞によれば「黒田氏は珍しく自ら発言を求め、財政の信認が揺らげば将来的に金利急騰リスクがあると首相に直言した」(関係者)というが、議事録にはそういう発言は残っていない。
「異次元緩和」の出口を考えている黒田氏としては、政府が財政再建を放棄したら金利がコントロールできなくなるので、安倍首相には財政健全化目標を守ってほしいが、リフレ派に洗脳された首相は「成長して税収を増やせば財政は健全化する」と楽観しているので、プライマリーバランスの黒字化も放棄し、「政府債務のGDP比」という曖昧な目標に転換しようとしている。
日銀政策委員になる原田泰氏によれば、政府がいくら借金しても問題ない。「国債には1千兆円の残高があるからまだ買える。国債は日本人全体の借金だ。それを買っているわけだから、[日銀は]日本人に恩恵を与えている」。
日銀は政府の一部だから、国債を買うのは政府が政府に金を貸しているだけで「輪転機ぐるぐる」でいくらでも買えるのだ。市場で買うなどという面倒なことをしないで、日銀が直接引き受ければいい。政府の負債は日銀の資産と相殺されるので、税金を廃止してすべて国債で調達すれば無税国家ができる――これが一時リフレ派のかつぎ回ったバーナンキの背理法である。
この論理の弱点は、日銀が国債を買いまくって日銀券が市場にあふれたとき、原田氏のいうように「静かに金融緩和を縮小すれば」インフレが2%で止まるのかということだ。そんなコントロールができるなら、リーマン・ショックのときFRBが「金利目標」を設定すれば暴落は止まったはずだ。成長率目標を設ければ成長でき、財政健全化目標を設ければ財政は黒字になる。
このように政府が経済をコントロールできるのは、計画経済に限られる。市場経済では、政府が金利や物価をコントロールできるとは限らないのだ。それが黒田氏でさえ財政に懸念を示し始めた原因だが、国家社会主義者の安倍氏は物価や金利がコントロールできると思い込んでいる。
これはそういう幻想を植えつけた黒田氏にも責任がある。1930年代にも、参謀本部が予算確保のために強気の見通しを出し続けたために、近衛文麿は陸軍より強気の対中強硬方針を出し、引っ込みがつかなくなった。
黒田氏は、遅くともあと3年の任期のうちに「出口」を達成しなければならない。福井総裁はこれを国債の償還を待つという形で平和裡に達成したが、残存期間が平均7年の今の日銀がそこまで待つことは困難だろう。それどころか、黒田氏が出口に言及しただけで金融村が売りに殺到する可能性もある。今回の議事録削除は、そういう不気味な未来を暗示している。