日本は分社化時代の幕開けか?

岡本 裕明

日本経営の特徴の一つに頭(=本社)でっかちであり、事業の決定権者が社長ではなく取締役会であったり集団合議、独特の稟議制度でありましょうか?

以前、勤めていた会社が銀行管理になった際、私が所属する海外事業部門も銀行出向者や時として銀行法人営業部と直接のやり取りが「本業」となっていました。銀行管理になるとあらゆる変化、例えば売り上げ、コスト、日々の行動などについて報告し、金がかかることはそのかかり具合により決裁を貰い、少額の場合でも部内でその承認を得る必要がありました。


ある時月次報告を本社に提出した際、銀行出向者から恐ろしいほど多くの質問を寄せられました。まさに閉口するほどだったその内容は「その全てが未知の世界」と思われていたようです。小学生に噛み砕いて教えるようにしているうちに馬鹿馬鹿しくなり「なぜこんなことを今さら聞くのか?」と返したところ、「銀行から出向してきた自分の上司に完璧な説明をするため」の保身でありました。それなら面倒だからこちらから上司だろうが銀行だろうが直接説明する、と啖呵を切り本当にそうなった結果、事業推進がことのほかうまくいってしまいました。

20日の日経にイオンが小型格安店を400店舗出すという記事が出ています。このまま読めば読みすごすところですが、実はこの記事のキーは出店計画を分社化して行うところにあります。事業社名はアコレで同社内で2008年から始めていた小型食品スーパーでコンビニの2倍程度のサイズの店舗形態「アコレ」をそのまま使うそうです。今回ようやく黒字化したことを受け分社化し大量出店にこぎつけるという流れであります。

イオンのような巨大な組織の中で「アコレ」部門は微力であって社内の大勢の中でどんなに虚勢を張っても声が届くことはありません。しかし、分社化すればアコレの部門長が社長という事ですから権限と責任をもって事業がサクサク進められることになります。勿論、読み違えればあっさり切られるし、事業廃止という罰則も当然待ち構えていますが人間本来の能力を最大限に引き延ばすには大いにプラスでありましょう。

分社化といえばソニーがやはり先週、全事業分社を進めるとして大きな話題になりました。垂れ流し続けたテレビの赤字はなぜ発生したのか、といえばソニーのプライドが儲かる体質を作りづらくしたことがなかったとは言えません。そういう意味で平井社長が下した判断は硬化した社内組織を壊し、小さな創造力集団から育て直すとみています。

考えてみれば電力会社も送配電部門を分社することになっています。三菱重工は造船部門を分社化しますし、CCC(カルチャーコンビニエンスクラブ)も昨年12月にツタヤなど3社に分社しました。1-2年後、多くの日本企業がそれら分社化先輩の業績の推移を見たうえで前向きならば一気に社内分社化を進める公算があります。

その時、日本の事業環境と労働環境が激変する可能性はある程度覚悟せねばなりません。事業は栄枯盛衰であっていかに時代の波に乗り続けられるかが勝負。分社した際にトップに立った人が伝説の人の様に称えられると事業の変化について行けなくなるのです。

同様に気をつけなくてはいけないのは分社化が日本全国規模で趨勢となればサル山の大将だらけになります。サル山の大将は本当に実力があるのか、たまたまそのポジションをゲットしたのか、そのあたりの検証と平等で公平な審査が親会社の役目となるでしょう。

日本経済は持ち前の財務的な足腰の強さもあってここにきて民間の「構造改革」を進めようとしています。この動きは私は高く評価しますし、日本に真の意味での能力主義が出てくることになるでしょう。そのためにも報酬も成果主義を取り込むなど従業員の努力がより報われやすくなるようにすべきでしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ外から見る日本 見られる日本人 2月26日付より