昨年末に発売されたトヨタの燃料電池車(FCV)MIRAIは、官公庁を中心に受注が好調で、発売後一ヶ月で1500台(既に当初の年間目標の約4倍)に達したそうです。その他にも、関連特許を無償公開して参加者を募る戦略や、2020年東京オリンピックに向けて「水素社会実現」を官民挙げて目指す機運も高まっています。
しかし一方で、燃料電池車は本当は全然エコじゃないし、インフラを整えるのが大変だから世界では普及しないだろうというシニカルな意見もある。
特に批判の急先鋒なのは、電気自動車ベンチャー・テスラのCEO、イーロン・マスク氏で、「フューエル・セル(燃料電池)はフール(愚かな)・セルだ」などと上手いこと言いながら批判、トヨタの上級副社長と舌戦になったというニュースも見ました。
まあ、電気自動車ベンチャーのCEOは当然そういう話をするよな・・・という問題もあるので、実際にはどうなんだろう?ということを少し調べてみると、
「めっちゃウマく行けば凄い可能性があるが、中途半端にやると最低の技術になる」
というような状況のようです。この記事は、そのあたりの問題と、日本の可能性について考えてみる記事です。
結論的を端的にまとめると、
1)FCVはちゃんと社会が活用できなければエコ的に最悪の技術になる
2)しかし、本当に活用できれば凄いエコになる。
3)かつ、現代社会の核心的課題である”格差問題”などにまでポジティブな影響を与えうる可能性があるし、ここ20年絶不調だった日本の良さを提示していける可能性を秘めている
というような内容になります。特に、この「技術動向」的な話だけじゃない、「3」の話が今回の主題なので、12はもう知ってるよ・・・という方も「3」だけ読んでいただければと思います。
1)燃料電池車(FCV)vs電気自動車比較(EV)をするとFCVは全然エコじゃない?・・・かもしれない。
細かい技術的な数字は開示する人の立場によって全然違うし、今後も変わっていくと思われるので、ざっくりした話をすると。
●FCVが有利な点
・ミライは既に一回の水素充填で650キロ走行できるが、現行の電気自動車はせいぜい200キロ程度である。(これを読むと実際にはそれより短いし、次の充電ステーションまでかなりドキドキすることになりそう)
・電気自動車は充電に時間がかかる(通常は8時間程度。急速充電でも30分程度)。これは将来もすぐには解消されないだろう。水素はガソリン車より少し長い程度の短時間(数分間)で満タンにできる。
これは大枠として今後も変わらない構図のようです。
基本的に、夜ゆっくり充電して通勤に使うとか、都市部での短距離移動だけの目的に買うならいいが、たまに長距離移動に使いたい・・・となると結構キビシイ状況は将来も変わらないだろうというのが電気自動車の最大のネックになっている。特に急速充電でも30分程度かかる・・・というのが、地味ながら決定的な感じに、実際の「実用性」を考えるとネックになるかもしれない。
さっきもリンクしましたが、ここに日産リーフ(EV)で実際に遠出してみた・・・というルポがあるんですが、常にバッテリー残量を計算しながらドキドキして走っていて、また急速充電機があるところで別の人が先に使っていたりすると、30分×人数分時間がかかるわけで(これは将来的にもかなりツライと思われる)、ガソリンでも走れるプラグインハイブリッドは充電すんじゃねえとか口論になったりすることがあるらしく(笑)、ドキドキ感がゲームとしては面白いかもしれないが、将来に渡っても本格普及するのは結構辛そうだなという感じもしました。
じゃあ、ガソリン車と似たような感じにすぐ充填できて使えて、走行中は水しか出さない、究極のエコカーFCVっていいじゃん!?ってなりそうなんですが、色々と難しい点があるんですよね。
●FCVに不利な点
・インフラ整備にお金がかかる
・水素を作る時点から考えると全然エコじゃない可能性がある
インフラ整備には相当お金がかかりそうです。既にある送配電網とか既にあるガソリンスタンド網とは全然違うものを作るわけですからね。ただ、現状では一箇所数億円・・・という話もありつつ、将来的には10分の1にできる技術が既に見えているとか、色々言われているので、本当に普及するようになればコストも相当下がるでしょう。
実際問題として、現代の経済は「なんかみんな納得できる大きなプロジェクトがある」ってこと自体が実は凄く「みんなが必要としていること」であったりするので、最初期を公費補助で賄いつつもある程度採算が取れるようになってきたら、「インフラ整備が大変」なこと自体が各国経済にとって「福音」になる可能性がある。
でも最後まで残る問題は、「・水素を作る時点から考えると全然エコじゃない可能性がある」の方なんですよね。
一番最悪なのは、現状発電の大半を火力に頼っている日本が、「火力発電で作った電力で水素を作ってそれでFCVを走らせるインフラにする」ことです。こうなったらもう目も当てられない。「トータルなエコ」を考えるとやらないほうがマシな世界になります。
将来に渡って技術進歩もあるし、現時点でも業界団体ごとに自分たちに有利な数字を発表するので、とりあえずウィキペディアのFCVのページ下段、「エネルギー効率」の項を見ておけばだいたいのことはわかります。
物凄く単純にいうと、
水素を作ってそれを圧縮して輸送して充填するプロセスに物凄くエネルギーを使うので、そもそも火力発電で作った電気で直接充電する電気自動車や、火力発電に使う化石燃料(ガソリンで発電するわけじゃないから厳密には違うものだけど)の分をそのままガソリン車で燃やして走ったほうが効率的
ということです。
つまりさらに単純に言えば、
・既に発電されている電気がある時に、それを使って水素を作って圧縮して輸送して充填してFCVを走らせるみたいな遠回りをするより、その電気で直接充電して電気自動車走らせた方が効率的
・化石燃料が目の前にある時に、そこから火力発電してその電気で水素作って圧縮して輸送して充填してFCVを走らせるような遠回りをするより、その化石燃料でそのままガソリン車を走らせた方が効率的
ということになる(以下の絵参照)。
ダメじゃん!?
・・・しかし、少し考えてみると、ここに「本当に凄いエコ」になる可能性が隠れているんですよ。それは次回お話します。
アゴラでは分割掲載しているので、一気読みしたいあなたはブログでどうぞ。
今後もこういうグローバリズム2.0とそこにおける日本の可能性・・・といった趣旨の記事を書いていく予定ですが、更新は不定期なのでツイッターをフォローいただくか、ブログのトップページを時々チェックしていただければと思います。
倉本圭造
経済思想家・経営コンサルタント
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(当記事の絵や図は、出典を明記する限りにおいて利用自由です。議論のネタにしていただければと思います)