プラハで“ラビ”の為の護身術コース --- 長谷川 良

アゴラ

ドイツのユダヤ中央評議会ジョセフ・シュスター(Josef Schuster) 会長は「イスラム教徒が多数を占める地域に住むユダヤ人は自身がユダヤ人であるということを明らかにするのを控えるべきだ」と述べ、男性ユダヤ人は通常、頭の上にキッパ―と呼ばれる帽子をかぶるが、反ユダヤ主義者の襲撃を受けないためにそのキッパ―を外すべきだと発言し、注目されている。欧州では反ユダヤ主義が席巻してきた時でもキッパ―着用を避けるといった意見がユダヤ人指導者から出てきたことはこれまでなかったことだ。



▲民族衣装キッパ―を被るユダヤ人(ユダヤ教の公式サイトから)

欧州全土で反ユダヤ主義が拡大し、今年に入っても1月7日、イスラム過激派テロリストの3人が仏週刊紙「シャルリーエブド」本社とユダヤ系商店を襲撃。2月14日にはデンマークの首都コペンハーゲン市内で開催中の「芸術と冒涜,表現の自由」に関する討論会会場で銃撃事件が発生したが、その翌日15日には同市内中心部のシナゴーグの近くで銃撃事件が起き,市民1人が死亡,警察官2名が負傷する事件が発生している、といった具合だ。また、ユダヤ人墓が破壊されるといった蛮行は欧州では頻繁に起きている。

フランスでは昨年一年間で約7000人のユダヤ人が反ユダヤ主義の風潮に嫌気を差し、長く住み慣れたフランスからイスラエルに移住した。欧州連合(EU)の盟主ドイツでも反ユダヤ主義関連の犯罪件数が増加してきた。独週刊誌シュピーゲル電子版が報じるところによると、2013年は788件だったが、昨年は864件で約10%増加した。「実際の反ユダヤ主義関連犯罪はもっと多い」といわれている。

パリの反テロ大行進直後、オーストリア・ウィーンの「イスラエル文化協会」のオスカー・ドイチェ会長は「パリのジャーナリストたちはイスラム教の預言者ムハンマドを風刺したことで射殺されたが、ユダヤ商店での4人はユダヤ人だという理由だけで殺された」と述べ、憤りを表している。

コペンハーゲンのテロ事件直後、イスラエルネタニヤフ首相は欧州居住のユダヤ人に対し、「イスラエルへの移住を歓迎する」とアピール。それに対し、メルケル独首相は「どうか欧州に留まってほしい。わが国はユダヤ人の安全確保のためにあらゆる手段を行使する」と約束するなど、異例のアピールを出している。オランド仏大統領も「ユダヤ人は欧州にその居住を保有している。特にフランスはそうだ」と述べ、留まるように説得したばかりだ。ちなみに、ドイツには2013年現在、10万1338人、フランスでは約48万人のユダヤ人が居住している。

チェコの首都プラハで24日、欧州のラビたち(欧州に約700人のラビ)が集まり、反ユダヤ主義者の襲撃を受けた場合、どのようにして自己防御(護身)するか、また負傷した場合の救急処置のトレーニングを受けたという。ラビが護身術のワークショップに参加するといったことは数年前までは考えられなかったことだ。それだけ、欧州居住のユダヤ人の危機感が高まっているのだろう。ラビの中には「全てのユダヤ人は銃を携帯すべきだ」といった過激な意見も聞かれるという。

一人のラビは「欧州の政府はユダヤ人の安全対策で十分ではない」と指摘、ユダヤ人自身が率先して安全対策を取るべきだと強調している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2015年3月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。