なぜ起きた、ロシア野党指導者射殺事件

岡本 裕明

実に奇妙な事件が起きたものだと思います。

射殺されたボリスネムツォフ氏は反プーチン政権のボイスとして活動し、特にウクライナ問題について政府のやり方を批判し、ウクライナの親ロシア派にロシアがどのようにかかわったかある程度の情報も持っているとされ、それを発表するのではとも指摘されていました。ウクライナのポロシェンコ大統領が同氏はウクライナとロシアの架け橋だったと指摘していることからロシア政府に睨まれていたことは事実でしょう。


そしてモスクワ川にかかる橋の上で夜の11時半にウクライナ人女性と歩いていたところ同じ方向に向かう清掃車に乗った殺し屋が同氏を4発の命中弾で射殺、女性の方には弾は当たりませんでした。その後清掃車から降りた犯人は迎えの別の乗用車で逃走した、というのが全容であります。

007シリーズのような話でありますが、勝手な想像をすればやはり雇われた殺し屋の仕業であると断定してよいでしょう。この話には疑問があります。

まず、ネムツォフ氏がなぜ夜中にモスクワ川大橋を女性と歩いていたか、これが不思議であります。まだ冬の寒い時期の夜中に普通は歩かないはずでこの女性が引っ張り出したとみた方が理に適っています。そして予定通り連れ出され、歩いているときに犯行に及んだということでしょう。まさに推理小説のような話であります。

ではなぜ氏が狙われたかでありますが、一つには強硬な反プーチン姿勢がプーチン大統領の目障りになったこと、もう一つはウクライナの親ロシア派とロシアの関係において何か決定的証拠を握っていたことでありましょうか?一つ目のプーチン氏の目障りの可能性についてはネムツォフ氏がまだ全国区のネームバリューを持っていない点を勘案すれば暗殺されるほどの理由がたちません。

ならば、後者である決定的なある証拠を掴んでいた可能性が高いのかもしれません。

ロシアでは今回の事件を割とまっすぐ報道しており、プーチン大統領も許せない犯行としており、この開かれた報道がより怪しく匂うのであります。

この事件が起きた背景を考えてみるとプーチン大統領が追い詰められている可能性があります。先日のウクライナ停戦交渉も4カ国首脳が16時間も掛ける中、プーチン大統領の強硬さにもやは交渉不可能というギリギリのところまでいったところをどうにかまとめあげたものです。しかし、その内容に誰も満足せず、誰も笑わず、誰もその成果の保証がないという違和感ある停戦合意でありました。

限りなくクロに近いグレーと言われる親ロシア派へのロシアの関与は追い詰められるロシアが必死に打開策を見出そうとしている中での抵抗であります。私が恐れているのはこのところ、世界のあちらこちらで不和が生じている中でロシアの動き次第では世界規模の争いが起きないとは限らない芽が醸成されないとは限らないという事です。

もがく敵をうまく抑える日本の戦術の一つに敵が逃げる道を一か所だけ開けておきほとんどを逃がし、最後、親分の首だけをとっ捕まえるというやり方があります。ロシアは今、その道をウクライナに求めているように思えますが、その道ががっちりガードされ更に世界主要国を敵に回してしまうという最悪の状況に陥ってしまっています。

そんな中での今回の事件は波紋を呼ぶだけでなく将来に禍根を残すようなきっかけにならなければよいと思っています。

今日はこのぐらいにしておきましょう。

岡本裕明 ブログ 外から見る日本 見られる日本人 3月2日付より