前回の拙ブログ「市場原理と格差縮小は両立する」の論理には、大きな弱点がある。1つの法人組織内では成立してもビジネス社会全体では成り立たないことが多いからだ。
同業の法人A社、B社とも競争よりも協調を軸に、効率的なチームワークで業績を上げ、社内の格差は縮小するとしよう。だが、A社とB社の間では熾烈な競争が展開され続け、やがて優位に立ったA社とジリ貧のB社の間で業績格差が広がり、A社の社員とB社の社員の平均給与も開いて行く。
前説を翻すマッチポンプみたい論理展開になって恐縮だが、これが資本主義の競争社会で見られる一般的な姿であることも否めない。A、B社が競争を回避して協調を強め、談合、カルテルに動けば独占禁止法によって処罰される。
より格差が開く原因は「資本」所有そのものにあると説いて今、日本でブームを呼んでいるのが、ベストセラー「21世紀の資本」を書いたフランスの経済学者トマ・ピケティ氏の論考だ。
ピケティ氏は「資本収益率(r)は経済成長率(g)を常に上回り、資本を持っている人は、一般の人より豊かになる」と過去の豊富なデータを示して自説を展開する。株式や貸家などへの投資の収益率は賃金の伸びより高く、だから資産家は勤労者を上回る速さで豊かになり格差はどんどん開いて行く、という。
そこで、ピケティ氏は富裕層への資産課税や資本税の導入を提唱する。
そのやり方や税率、課税対象者の幅については、様々な異論があるが、税の再分配によって格差を縮小することについては、多くの人々の間で異存はないだろう。
それは1法人内ではなく、国家の中で「協調」が進むことを意味する。法人同士は競争しながら、国家規模では競争だけでなく、協調によって社会全体が永続きする道を選ぶ。その道は簡単ではなく、あつれき、摩擦を伴い、時に挫折することも少なくないが、その道を進むしかない。
ただ、資本は国家の枠を超えたグローバル社会で自らの勢力を拡大しようとし、その弱肉強食が紛争を惹起する危険も大きい。国際社会での協調をどう育むか。
この難題は国際社会の古くて新しいテーマであり、今もって解決には程遠い状況だ。だが、常識的な結論になってしまうが、解決への努力を怠るわけには行かないのも、また確かである。
編集部より:この記事は井本省吾氏のブログ「鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌」2015年3月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった井本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は鎌倉橋残日録 ~ 井本省吾のOB記者日誌をご覧ください。